
光と影である。
ガラス窓から差し込む床に落ちた光、投影の中に潜む塵埃は微かに動いている。まったくの静止というものはなく、むしろ激しく流動しているとさえ言えるかもしれない空気の冷静。
陽を仰ぐような地上の対峙ではない、ひっそりとした古家の壁や窓との対峙。画家は対話し、呼吸を合わせ、融合(融解)している。
古い(時間を経ているということ)壁(外界と内界を隔てる界)への郷愁は言葉に尽くしがたく脳裏を刺激する。《わたしという存在》への問いは無限に続行される。この静謐この空気との調和はわたしという存在を《無》に還元していく、空中に舞う塵埃への変貌である。
時間は決して留まらない、この瞬間においても。
画家は自らの呼吸と塵埃が呼応しているのを感じ、光と影に舞う塵埃はわたしそのものでさえあると陶酔し、否、覚醒したのだと思う。
写真は日経新聞 2022.9.20