古い経年の建屋、室内である。威風堂々の静けさは豪華とは無縁であるが人の息づかいの蓄積がある。年月は確かにこの室内をも擦過し今に至っている。

 人の営み、生老病死、いくつもの物語。栄枯衰勢、雨風嵐を見つめてきただろうか。語ることのない壁、開閉自由の窓やドアは数多の出入りが賑やかな笑いに包まれ行き交ったのではないか。

 歴史を秘めた風合いや風格は黙ったまま語ることは無い。この佇まいに着いて離れない昔を偲ぶことの可能な空気に浸る我儘な執着を画家は是が非でも描き留めたかったに違いない。

 不在になってしまった在りし日への懐古、部屋に留まる塵埃は何かを知っているのではないか、そうに違いない。画家はそう語りかけ、この室内に同化し安息のため息に浸っている。

 写真は日経新聞より