『光のなかで読書する女性、ストランゲーゼ30番地』ヴィルヘルム・ハマスホイ

 ドアがあり、窓がある。光はやわらかく室内に差し込み、側には女性が腰かけ読書している。
 この作品の主体は読書する女性であるにもかかわらず、鑑賞者は大きな窓とドアのまばゆいばかりの白(あるいは光り)に対峙せざるを得ない。女性は存在しているが存在を打ち消すほどの消極さで描かれている。

 窓を開ければ世界(外界)は広がりを見せるが、あえてカーテン越しの光が際立つ。光と影のコントラストも主張するというより控えめな日常の落ち着きである。遠近法は目視の自然として打ち消され、平面的な広がりは画家の意思である。
 言葉やざわめく活気は抑制され、無音の空気、遮蔽された空間、山でも海でもないごく狭い私的な空間への強い愛着が潜在している。

 この時を止めたような静謐は、むしろ時間への執着をこそ惹きだし、画家の肯定してやまない時空への偏愛を垣間見せている。

 写真は日経新聞「絵画に現れた光・十選」岩崎余帆子 より切り抜き。