『背を向けた若い女性のいる室内』ヴィルヘルム・ハマスホイ

 静謐、時間が止まったような静けさ・・・否、ずっと長い時間を引きずっている沈黙である。
 若い女性は背を向けている、懐古の気配、無機的な彩色の壁に目を落としているに違いなく、その奥に潜む巡る想い。断ち切ろうとしているのか、明日へつなごうとしているのかは判らない。
 古い家のたたずまい、若い女性はこの家の時間の中に融合しているかに見える。彼女の所有する時間、未来へ向かうべき未知の時空はあたかも閉じ込められ、愁色めく沈静、沈黙に在る。

 これほどまでの息づかい、空気の質、空気の軽重をも図る構成。これらは額縁の直角の線状や壁面などの全体のくすんだ色調から醸し出されている。
《封じ込めた時間の重さ》と《若い女性の背後》の妙。繰り返し現出していく性の神秘、物(経年)と命(連鎖)は沈思黙考の空気の中、確かに存在し関り続けている。

 写真は日経新聞 2020.9.20 ヴィルヘルム・ハマスホイより