製品は設置されるべき場所があり、用途の必要に応じて作られている。
 あるべき場所、生きるべき場所が外れると、意味を失う。

 意味、存在論的根拠の喪失。彷徨うしかない不安定はむしろ撤去を望まれる代物にすぎない。
『罠』という作品の哀愁、気づけば蹴飛ばしたくなるような不要物と化し、気づかなければ躓き転倒を余儀なくされる邪魔、不快でさえあるものに変化している。

 役目を担うべく製作された(木製コート掛け)は、然るべき位置、要望により作られ要望による場所でなくてはならない。暗黙の了解、常識の規律は平然と日常を支配し日々の安定を図っている。破ることの違反は笑止、誰からも評価を得ない。この亀裂・・・希少、少数派の悲哀。打ち消されるべきものという評価は当然まかり通る。百歩譲ってこのコート掛けを黙認するような者はバカである。甘んじてバカを主張するデュシャンの意図、心情、震える反旗。
 この沈黙は深い。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENより