
『チョコレート粉砕機』
実際にチョコレート粉砕機なるものがあってそれを参照して描いた作品との説明がある。
粉砕機…しかしどこにもその作用を認めることができない。それらしい形態であるが、回転に必須な接続もなく、ローラの角度も真逆。粉砕の意味を成すものは皆無である。これらが乗る台の足も上部の重さで押しつぶされそうな虚弱な猫足である。
全体、何か目的を持った作用を果たすべく造られていない『チョコレート粉砕機』。
役に立たず、意味をなさず、ただそれらしいと錯覚させる《無》である。《解放》と言い換えてもいいかもしれない。
デュシャンの目指すもの、存在の否定と解放。何かひどく絶望感を感じる。生産性、希望を剝奪する腕力めいた横暴を静かに肯定する寂寥感がある。明らかに存在しているという事実に立ち向かう沈黙の作品である。
写真は『DUCHAMP』TASCHENより