「白紙委任状」

 樹林の間を通り抜けていく女性騎士…けれどよく見ると奇妙である。
 絵が繋がらない。一見、樹林の中を通り抜けていく平凡な景色なのに、馬に乗る彼女が部分的(垂直)に消えてしまうことを確認するのに時間はかからない。

 明らかに矛盾するこの絵を何度も見て、答えを探したけれど見つからなかった。
《物理的条件は絶対》であり、自然は動かせない。この必須条件に重く縛られている。水や空気はが垂直に断絶する事は絶対にあり得ない。
 絶対の重さはわたし達の想念を束縛している。

 マグリットは《絶対》に抗ったのである。
 存在の否定ではなく、存在の理念に対する緩やかな、否、強硬手段を持っての否定である。
「白紙委任状」は節理の呪縛を静かに、しかし剛腕を持って解放したのである。

 写真は『マグリット』展・図版より