
衝撃である。
歴史的建造物が白い布に覆われることで消えてなくなる。在ることを承知しているが、明らかに消失しているのである。
視覚の現実に抗えない。
当然存在していると思っていた物が変容する、歴史が持つ時間さえ霧散する工作。
時間を消し、空間を占拠する白い布、カバーという空虚。対象物が大きければ大きいほど、周知の広さが知れ渡っているほど、その衝撃は大きい。
存在していたものが隠蔽される。雲や霧などという自然現象ではなく、隠ぺいは《意思、計略》という人為的なプロセスである。精神の亀裂ともいうべき不審・不安・驚愕は既存の思考を覆してしまう。
『「一時性」に際立つ喜びと美』と題されているが、ある種の危険、ある種の崩壊、ある種の悪が垣間見える。しかし、それは通常抱く頑なな概念であることに気づく。それらを消去する感動は、やはり(喜び)であり、異端の(美)と言えるかもしれない。次元を超える視覚の美である。
日経新聞『「一時性」に際立つ喜びと美』より