「ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?」
 レディ・メイド:鳥かごに入れられた152個の角砂糖型大理石、温度計、イカの甲。

 この違和感、使途不明は思考を拒絶する。意味を見出せず、停止せざるを得ない判断能力。
 喜怒哀楽のどれにも該当せず、真善美の感想をも受け付けない。

 では、「無」かと問えば、明らかに存在し形あるものである。失われることなく破損もせず存在している事実は明白である。

 所持することを由としない、存在しているが存在の意味を見出せない不可思議な物の集合体。
《決して何かを想起できない》《想起することを拒否する》この執念を持って制作した「ローズ・セラヴィよ、何故くしゃみをしない?」である。

 もちろんこの意図に気づかせようとはしていない。作家(デュシャン)は《分かり得ぬもの》としての告白をこの作品に秘めたのではないか。曖昧模糊、意思疎通の断絶、見えない精神的的空間の可視化を図ったに違いない。

 立体であり感触を持つものであるが、その指先に共感を得られぬものとしての作品。これより前にもこれより先にも答えを見出せない、厳然として存在するものでありながら、存在の意味を削除し得た記念碑的作品である。

 写真は『DUCHAMP』TASCHENより