土曜日のお昼12時。
仕事は15時からなので、まだまだ大丈夫。
ゆるめる。
メイクだって、直前までしなくてOK。
できるだけ、ゆるみきって、ダラダラしよう。
そこにピンポーンと呼び鈴がなる。
宅配やセールスなら、インターホン越しの対応で大丈夫。
「はい」
ボイストレーナーにあるまじき、ダラダラの低音声で返答。
「こんにちは!〇〇です。浜田真実さん、ご在宅ですか?」
一瞬にして総毛立つ。
涼やかな女性の声。
モニターを見ると、女性がふたりで立っている。
え?名指し?〇〇さんて、誰?え?ゆるんでるんですけど、私。
レッスンじゃないよね。生徒さんじゃないよね。え?誰?
インターホンに出た以上、居留守を使うわけにもいかず、
ダラダラのまま玄関先へ走って行く。
「こんにちは!○○の家内です。
その節は、主人がお世話になりました。」
「え…?」
凄まじく笑顔の女性。
思い出せない・・・、どうしよう。
ボイトレの生徒さんの中にも、〇〇さんという名前の人はいないはず。
私がぼんやりと黙っているのを察して、あわてて女性が説明をする。
○○さんは、私が38年前、とあるスクールに通っていた時の
一期上の先輩。
その男性から突然連絡が来て、会いたいと言われたのが7年程前。
まったく記憶にない人だったが、夫も「会ってみればいいじゃん」
と軽く言うので、会ってみたら、なにかと共通する記憶もあった。
確かに、私の一期上の先輩○○さん、ということらしい。
だが、お会いしても、当時の先輩のことはなにも思い出せない。
というより、先輩方とはほとんど交流がないので、誰のことも
そんなに憶えてはいない。
お酒が不調法の私は、ノンアルコールをいただきながら、
思い出話を少しして、その夜はお別れした。
お会いしたのは、確か、その一度きり。
その後、何度か電話でお話をしたような記憶もあるけれど、
ここ5~6年は、まったく連絡がない。
「あ、ああ、はい。〇〇さんの奥様・・・?」
「はい(女性微笑んでいる)主人がお世話になりました。
会っていただいて、主人もとても喜んでおりました」
「え?いえ、あ、あのこちらこそ…」
しどろもどろ。
「(女性、微笑んでいる)」
怖い。
その素晴らしい笑顔の向こうに、どんな思いがある?
まさか、なんか勘違いしてないよね、奥様。
まさかね。だって、7年位前だよ。
それも、1~2時間、お茶しただけだよ。
え…?
喜んでおりましたってことは・・・
「…あ、あの・・・○○さん、どうかなさったんですか?」
「いえ、元気にしております(微笑む)」
「…あ、ああ…そうですか・・・」
「(女性、微笑んでいる)」
怖い。
この沈黙。
さ、刺される?
「えっと…ご用件は…?」
「はい。実はお願いがあって参りました」
「え・・・? な、何でしょう」
「今、日本は、大変なことになっています」
「・・・へっ!?」
「もし、支持する政党がお決まりでなければ
△△党を、お願いしたいと思いまして」
せ、選挙・・・?
△△党?
選挙かよ~~~~!!
こんな薄い縁で、選挙かよ~~~!!
「び、びっくりした・・・」
思わずつぶやいた私に、女性は△△党の広報用の
パンフレットを手渡し、ぜひ、よろしくと微笑んだ。
「東京に知り合いがあまりおりませんので、
こうして訪ねて参りました」
あ・・・、そういうこと。
選挙ね。
持論を展開したい欲求がムクムクと湧き上がって来たのだけれど、
私、スッピンだし、下ジャージだし、毛糸の靴下だし、草履はいてるし。
ま、どうでもいいですけど、なんとなく、説得力ないし。
夫のそんな薄い縁の女性にまでお願いに来なければならない
△△党の事情ってどうなのさっ、と思うと黙るしかなくて。
「あ、ども、はい。ありがとうございます」
と、うつむきながらパンフレットを受け取って、そそくさと扉を閉めた。
日本は、今、大変なことになっています。
それは、そうだと思いますが、私、自分で考えて選びます。
ちゃんと行動もしますから、いきなりはやめてね。
なんか、悪事がばれたのかとドキドキします。
何もしてないけど。
たぶん。
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