児童文学作家もとしたいづみさんの世界を観る眼は、斜め下とか後ろの上とか、ちょっと角度が変わっている。
もとしたいづみの角度がある。
我が家の近所には、地元民から「屋敷森」と呼ばれている古民家があるのだが、保護樹林となっているその森を、ずっと以前、いづみさんと散策した。
幕末の頃、大きな漬物屋さんだったというその森の中を、「ハクビシンとかいるらしいよぉ」などと言いつつ、私はのんきに歩いていたのだが、いづみさんは、柔らかい土を踏みしめながら、ぽつりと言ったのだ。
「ここらへんに、何人か埋まっているんですかねぇ…」
「・・・?」
「出来の悪い丁稚かなんかが、何人か」
私は黙ったまま、いづみさんの横顔と、足元の土を交互に見る。
次の瞬間、由緒正しき保護樹林は、漬物屋の親方に惨殺された丁稚の骸骨と、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、異界の森になっている。
私は深い呼吸をして、心の中で「師匠、ついて行きます」とつぶやく。
いづみさんの角度に触れるたびに、世界の色がとんでもなく面白く、ちょっとひねりのきいた鮮やかさになる経験をたくさんした。
いづみさんは、大好きな友だちであり、異界案内の師でもあるのだ。
前置きは長くなったが、そんないづみさんの初のエッセイ集。
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児童文学に出てくるおやつと、いづみさんの大好きなおやつのコラボ。
わぁ、そう来たか!!と嬉しくなった。
例えば、ちびくろサンボに出てくる、溶けたトラのバターのホットケーキ!
そうそう、あったよねぇ!
若い人には馴染みがないと思うけれど、50代の私には、強烈なインパクトで残っている代表的なおやつだ。
食べたことはないけど。
トラはぐるぐる回るとバターになるのだと、かなり大きくなるまで信じていた。
そんなおやつ一品につき、文学一作品が紹介されていて、ものすごく楽しく美味しいエッセイ集なのだ。
そして、いづみさんの角度からみた日常が、あちこちにちりばめられている。
いつの間にかコロッケ検定を受けて、コロッケニスト(!)になっていたいづみさんや、かなり性格の悪い三人官女や、底の浅いゼリー男や、こたつで内職をしているおばあさんのような安藤君のお母さんが次々に登場する。
私はクスクス笑いながら、「師匠、さすが!」と思う。
そして、今日!
わっ!今夜だ!
お知らせがすっかり遅くなってしまったが、今夜いづみさんのトークショー&サイン会が開かれる。
私は、当然、行く!
いづみさんは、11月3日のまほろ座の試演会にも出演が決定。
こちらも併せて、お楽しみくださいまし!
では今夜、ブックハウス神保町にてお会いしましょう。

