遊びで行くべ!
遊びなら、責任を持つ必要もないし。

どうせ!どうせ、身を立てることは出来ないんだし。
儲からないんだし。
勝手にしても良いんだしっ。

オレ、自由にさせてもらいますからっ!


反抗期の男子中学生のようなセリフを心の中で唱えながら、ライブ会場に行った。

なんか、楽しい。
嘘でしょ、というくらいに、心がワクワクはずんでる。

やりたいことや、今後の展開が次々に浮かんでくる。
こんな気持ち、しばらく感じていなかったなぁ。

ガラクタが吐き出されて、枠組みとれると、こんな感じなの?

濱田真実、良い感じじゃん!

お客様が入っていらした!
さぁ!メイクを整えて、ステージに立ちますかっ!

すがすがしく微笑んで楽屋に入り、キャリーバックを開けた。

ん?
ない・・・

メイク道具一式を入れた、私の変身バックがない。

え~~~~~~~!!!!
嘘でしょ。
どどどど、どうしよう。
ほぼ、すっぴんに近いんですけど。

昨日、わざわざ準備したツケマーは?
今日のために新調したメイク道具は?
歯ブラシは?
ネイルは?
ななななな、ない!

ない…

ステージに立って27年。
どんな状況下でも、メイク道具だけは忘れたことがなかったのに。

おいおいおいいい~、ステージ用の靴。
なんで、2足も持って来てるんだあ~~!!
どの足にはくのか、ええ~!

一緒に出演する、絵本作家のもとしたいづみさんが、自分のメイク道具をひっくり返し、ベテランナースのように次々にメイク道具を手渡してくれる。

「あ、ああああ、ありがと」

完全に舞い上がっている。
身体が小刻みにふるえてくる。

いづみさんからの借り物でそそくさとメイクを済ませ、Gパンの上からステージ衣装に着替え・・・

バリっ・・・

嫌な音が聴こえた。
やぶれてるし・・・

呆然自失からの、青天の霹靂経由の、万事休す。

すみませーん。
私、そろそろ帰りますね。


そう言って逃げ出そうとした。
だが、さすがにそうすることも出来ない。
会場は、ほぼ満席。

もう、飾れない。
いや、飾らなくて良い。
そのままで良いよ、もう。

幸い、衣装のほころびは、外からは見えない。

このまま出よう。
今のままでいよう。

27年続けてきた私の経験が、きっと、何とかしてくれる。

ステージに立った。

一緒に立つ仲間たちの声が、心地良い。
会場に来て下さった方たちの、息遣いが聴こえる。

私の歌が、私から溢れ出て空間を人を満たす。

良い時間だった。
みんな、笑ってた。
楽しかった~!
という声が、あちこちから聴こえた。

私、これが好きだったんだよね。
これだけで良かったのに、今まで、何を背負い込んでいたんだろう。

ずっと治らなかった咳が、コンコンと続いていた空咳が、その日を境に止まった。
ストレスだったのか・・・

世界って、自分の見方と解釈次第で、どんな風にも姿を変えられるんだね。

81歳の一撃がなかったら、こんなに清々しいライブはできなかったかもしれない。

ありがとうございました。
遠いところに向かって、そんな念を送ってみた。

後日、夫に尋ねた。

靴二足、持ってったていうのはさ、砂浜に付いたふたつの足跡みたいな?
神様は、一緒に歩いてますよ的な?メッセージ?
かもね~。

いや、それは違うでしょ

…ですよねー。

あっさり否定。

はいはい。
まだまだ先は長そうなので、地に足を付けて歩きますよ~♪

そう言うと、久々にハナウタを口ずさんでいる、私がいた。