解体され、新しい生き物として再生された、
摩訶不思議な声を持つ、人懐こいサイボーグTatsuya。


第2第4水曜日は、ききみみずきんの日。

というわけで、今週は、9年前に出版された私の著書、「声美人で愛される人になる」(ソニーマガジンズ刊)

でも取り上げた、若手実力俳優の声に再び、ききみみを立ててみました!

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藤原竜也さん。

若手だと思っていたら、すでに32歳なんですね~!

蜷川幸雄さん演出の舞台、「身毒丸」で鮮烈なデビューを果たしたのが、15歳の時だそうです。

以来、舞台・映画・ドラマなどに大活躍の藤原さん。

178cmの長身から発せられる声は、かなり個性的。

そこで今回あらためて、じっくりと声を聴いてみたのですが・・・

驚いたことに、15歳の声と17年後の32歳の声が、あまり変わっていないんですよね。

藤原さんは、お酒も強いし、タバコの本数も多いようです。

当然、声にも影響は出ているのですが、ベースの部分は変わっていません。

同じ年代の、「嵐」のメンバーたちは、デビューから15年を経て、少年声から大人声に驚くほど変わっているのに、藤原さんの声は変わらないんです。

年齢的なことだけでなく、映画や舞台やナレーションなど、仕事の質が違っても、やはり藤原さんの声は、変わりません。

淡々と、藤原竜也であり続けています。

強烈な芯がある声です。

その反面、何者でもない声でもあるような気がします。

サイボーグ・・・?

なんだか、とっても不思議な声です。

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学芸会にすら出たことのなかった14歳のサッカー少年が、街を歩いていた時にスカウトされ、蜷川幸雄に出会ったわけです。

その稽古は、まず「人格否定」から始まりました。

家族と離れて、いきなり一人暮らしになっただけでなく、罵倒され物を投げつけられ、稽古場で、泣くことしかできない毎日。

「身毒丸」は、寺山修司の作品です。
相手役は、白石加代子。
初舞台の自分が、主演です。

母に恋をし、目を潰されて、地獄に落ちる少年の話。

想像を絶する体験です。
考えただけでも、恐ろしいです。

でも・・・

ふと気づくと、ロンドンの劇場に立ち、万雷の拍手を浴びている自分がいたのだそうです。

通過儀礼

そんな言葉が浮かびました。

人生の節目のイニシエーション。

身体的苦痛を伴うことが多いのですが、それを乗り越えることで、一人前の大人の男として、周囲に受け入れられるための儀式でもあります。

藤原さんは、現代社会では薄れてきた通過儀礼を、心身共に経験したのではないでしょうか。

しかも、強烈な形で。

作品と蜷川幸雄が、少年藤原竜也を解体し、演劇という核を埋め込み、生まれ変わらせた。

つまりデビュー後の藤原さんは、細胞の隅々まで役者という、新種の生き物になったわけです。

運命を受け入れ、自分を捨て去り、生まれかわることが出来たこと。

それが、藤原さんのしなやかさであり、天才と称される由縁でもあると思うのです。

声の質は、かなりエキセントリック。

なのに、ザラッっとした硬質な肌触りが妙に心地良く、聴いているうちに、癖になる声です。

するするっと人の懐に飛び込み、天真爛漫な雰囲気で人の心をつかみ、しなやかでいて、その実、とてつもなく冷めている。

そんな、不思議な声。

藤原さんの役が、どんどん幅広くなっているのは、その声の不思議さも一役買っているのだと思います。

あなたもききみみを立てて、藤原竜也さんの声を聴いてみてくださいね!