ずっと以前、とってもステキな女性に出会った。
あまりにも可愛い人だったので、3回目に会った時に、ほめた。

最初から思っていたんだけど、すっごく可愛い唇してるのね~。

とってもステキ!


そうしたら、あきらかにムッとされた。
あれ?なんか、悪いこと言ったのかな、私。
ピンポイントで、ほめたのがまずかった?


いや、唇だけじゃなく、あなた全体的にとってもステキだと思う
とたたみかけた。

そうしたら、ますます不愉快そうな顔をされた。
あれ?火に油注いじゃった?
なんで?

私、ほめられるの好きじゃないんです

ぼそっと、彼女が答えた。
そんなことを直接言われたことがなかったので、驚いた。

えぇ~!そうなの?ごめんねぇ。
ステキだと思ったから、素直にステキだと言ったんだけど


私、外見をほめられたくないんです。
どうせほめるなら、中身をほめてください!


なかみ?
中身って?
いや、私、あんたの中身なんて、知らないし。

何だか、お誕生日のプレゼントにお人形をあげたら、
「どうせなら、もっと知的な本を寄こせよ」
と、突き返された気分。
カチンときた。

ほう、中身をほめられたい?
あなたの胃の形が良いですねとか、腎臓がキレイだとか言われたいのか?
へぇ~、わかるかそんなもん!
医者に、レントゲン見ながらほめてもらえ。
だいたい、あんたと本音をぶちまけて話をしたわけじゃなし。
今までだって、上っ面な会話しかしてないじゃない。
あんた、随分、傲慢な言い回しをするんだね。
人の何気ないほめ言葉を受け取らないなんて、どういう了見?
言わせてもらえば、あんたはね、外見しかほめるところがないんだよ!


と、言いたかった。
言えない。

彼女は、ふてくされて帰っていった。

あの頃の私は、今よりもずっと若かった。
彼女の怒りの向こう側にある悲しみに、気付くことはできなかった。
今なら、私に甘えたかったんだろうなと受け取れる。
本当は、私じゃない別の人に、その言葉を伝えたかったんだろうなとも気付ける。
もっと私を見て
もっと本当の私を認めて
という、声にならない声も、多少は聴こえてくる。

でも、当時はゆとりがないから、彼女から投げられたボールを、そのまま打ち返してしまった。
強く言い返しはしなかったけど、「そう、もったいないね」とだけ。

それにしても、その日以来、ほめられても歓ばない人にたくさん出会った。
歓べないのかな。
私のほめ方が上手くないのかもしれないけれど、誰からもほめられたくないと、はっきり言う人もいる。

私は、ほめられるのに値しない人間なので、どうか私をほめないで下さい」。
そんなに堂々とお願いされても・・・、ねぇ。

うん、わかった。
ほめないから、安心して。
だけど、あなたの声はとっても力強いのよ。
気付いてる?
本当の自分はここにいるよと、訴えてもいる。
私には、それがわかる。
私は、その言葉を、無視したくないだけ。
あなたが不愉快になろうがなるまいが、私は感じたことを伝える。
嘘をつきたくないからね


これは、ちゃんと伝える。

私にとっての真実が、相手の真実かどうかは分からない。
でも、私はそう感じるんだと伝えることは、大事だと思っている。
幸いなことに、私には、目の前の人の魅力や良い部分が飛び込んで来やすい。
だから、必然的にほめることになるけれど、けっして、嘘をついているわけじゃない。

その言葉を受け取るかどうかは、あなた次第

誰も、あなたの世界を変える力を持っていない。
その力があるのは、あなただけだから


そう。
全ては自分次第。
だから、受け取って気持ち良くなる方を選べばいい。
不思議なことに、自己否定やけなされることが、快感になっている人もいるけれど。
自分の世界は、自分で創っているのだから。

ひとつひとつほめられることを自分に許して歓んでいたら、きっと、今よりももっと、楽しくなれる。
さらに、

もっとほめてくれ!
と、自ら要求するくらい、図々しくもなれる。

私みたいに。