大学のスクーリングには、10代から70代くらいまでの幅広い年齢層が参加する。
年齢は幅広くても、同じ時間を同じ教室で過ごすクラスメート。
昼食などを共にすれば、初対面の人たちともすぐに仲良くなれる、はず。
お昼になって、さて、若者とランチでも・・・
とあたりを探っていると、「ご一緒に」と声がかかった。
ふとみると、同じエレベーターに乗り合わせた60代と思しき女性と40代の女性。
やはり、年齢が近そうだと、安心感があるのか。
若者は、私たちの横を素通りだ。
3人でランチをすることになった。

私ね、2003年に入学したんです
と60代女性。
え!私も」
と40代女性。
急にふたりが大接近。
10年も在籍しているので、来春に卒業できなければ追い出されちゃう
そう!そうなんですよ、頑張らなくちゃ卒業が難しそうだわ
とふたりで笑う。

そうか、やはり働きながら通信制の大学を卒業するのは大変なことなんだなと思う。

授業料もね、年間20万円位引き落とされるでしょ。
気がついたら200万以上勝手に引き落とされてて。
私ね、今まで、気が付かなかったんですよ~

と60代。
黙る40代&50代私。

確かに大学からは、半期ごとに、10万円以上の授業料は引き落とされる。
そりゃ、通学よりも格安だけど、それでも10万。
彼女は、芸術学部の音楽科だから、もう少し授業料は高いはずだ。
気が付かないなんてあるのか。
そうか、何千万も通帳に入っていたら、10万くらい引き落とされても気が付かないってことはあるかもしれない。

あなた、お嬢様なんですねっ!
突然、40代が不機嫌になった。
語気が荒い。
気が付かないなんて、あるのかしら。
もう、お嬢様なんだからっ!

怒っている。
怒りながら、私を見て同意を求めている。
あ・・・、はぁ、ねぇ~
と曖昧に笑う、中途半端な反応の私。

初対面なんだから、初めて一緒に食事をしているんだから、まぁ、まぁ、そんなに怒らなくてもと、貼り付いた笑顔のままの私。

ほんと、頑張らなくちゃねェ
60代、怒られているのに、気付かない。

これでもかっ!という位、硬いクロワッサンをボソボソとかじりながら、世の中にはいろんな環境で、いろんな暮らしをしている人がいるものねぇと思う。

突然、40代が私の方に身体を向けて言った。
私ね、原田真二のファンなんです
クロワッサンの粉が気管支に飛び込む。ゲホッ!

濱田 「えっ!ハラダ?あ、ハラダシンジ?
    あのキャンディ~アイラビュ~の、ハラダ?

40  「そ、今、原宿でライブやっているんです
濱田 「・・・あ、え~っと、そうですか~
40  「行きたいわ
濱田 「・・・
40  「彼ね、とってもエライの。NPOの理事をやっているの
濱田 「あ、そうなんですか。何の?
40  「だから、NPOの
濱田 「ええ、だから、何のNPOなんですか?
40  「NPOの理事です
濱田 「何系のNPO?環境系?
40  「・・・、ここから、原宿って近いですか?
濱田 「ここは、高田馬場だからそんなに遠くはないけど、近くもないです
40  「行っちゃおうかな~。原宿。行かないけど

「行けば?!」と言おうとしてやめた。
確かこの人、荻窪に何十年も住んでいると言ってたけど、東京の人だけど・・・

黙ってカツサンドを食べていた60代が口を開く。

60 「私ね、アイデンティティ・クライシスを経験しましてね
40 「何?クライなんとかって何?
60 「クライシス
40 「何?それ
60 「崩壊とか危機とか
40 「へえぇ~、セレブなんですね。やっぱり、お嬢様だわ

40代、私を見る。
目をそらす、私。

その後、私は、ランチの間中ほとんどしゃべらず、
大人しいですね~
と二人に言われるに至った。