2004年3月3日は、私が主宰する心と身体をつなぐボイストレーニングクラス・マミィズボイススタイルの誕生した日。
その数年前、私は、喘息を発症し歌うことが出来なくなっていた。
毎晩、あらゆる場所に出没して歌の仕事をしていたのに、ステージに立とうとすると、喘息の発作が起こる。胸に力を入れ、呼吸を詰める様にして歌う。そうでもしないと、歌っている途中に咳き込みそうで怖かった。
緊張が続き、疲れ果てた。
全身に、原因不明の痛みも走る。
「もう嫌だ、歌いたくない…」
心も身体も限界に達した時、全ての仕事を捨てて私は逃げ出した。
音楽家である夫に、「もう、歌わない」と告げた。
喘息の症状はほどなく消えたが、歌うことは怖い。
幼い娘に「ママ、おうたうたって」とせがまれても、緊張して子守唄すら歌えない。
今までとは違う生き方、歌わないでいられる道を、必死に模索した。
さまざまなアルバイトに出向いたが、気持は沈む一方。どれも、長続きはしない。
かといって、10代から働いてずっと自分を養って来たせいか、専業主婦をしても息が詰まる。
ようやく大きな企業の派遣社員になり、正社員以上に仕事をこなしたつもりだったが、理不尽に契約を打ち切られた。追いつめられたような気持で、職業安定所に通う日々。
良いのか、これで。
本当に良いのか、このままで。
職安からの帰り道、満足に呼吸も出来ていない自分に気づき、足が一歩も前に進まなくなった。
こんな自分が嫌い。本当に情けない。ダメだダメだダメだ…
ふと目を上げると、目の前に大きな書店の入口が見えた。
初めて見つけた書店だった。
「神様!神様!」心の奥で叫んだ。
「私、今とっても苦しい、苦しいです。私でしかできない仕事をしたいです。でも、それが何だか分からない。どうして良いのかも分からない。私は今、私でなくなっているような気がします。
今から、あの本屋に入ります。私の仕事のヒントになるような本に出会わせて下さい。お願いします。助けて下さい。生きる指針を下さい」
誰に祈って良いのかも分からない。
ただただ心の奥で、叫ぶように祈り続けた。
重い足を引きずって書店に入り、ため息をつくような深呼吸をした。
背表紙のタイトルは一切見ずに、足元を見つめたままで書店の中を歩く。
この現状から抜け出すきっかけが欲しい。その思いだけで、ゆらゆらと歩き続けた。
足が止まった。
手を伸ばし、うつむいたままで一冊の本を手に取る。
本のタイトルが目に飛び込んだ。
小泉文夫著作選集(1) 人はなぜ歌をうたうのか/小泉 文夫

¥2,100
Amazon.co.jp
う、うわぁ…
声にならない声が出た。心臓の鼓動が激しくなる。
本を抱えたまま、ホロホロと涙がこぼれた。
歌…、やっぱり歌ですか…
何万冊もある本の中から、私はこの本を選んだ。
私が選択した、私の明日は、歌…
本を買い、夢中で読んだ。
著者の小泉文夫さんは、民族音楽の研究者。
わらべうたや子守唄、世界中の民族音楽について、溢れんばかりの愛情で語っている。
歌えなくなる以前の私は、民族音楽が大好きで、民族楽器のミュージシャンとバンドを組んで歌っていた。民族音楽は、私にとって自分自身に戻るための音楽だったことを思い出した。
歌いなさい、自由に。
あなたの感じるままに。
生きている歓びを、歌い続けなさい。
本が、私に語りかけてくるようだった。
もう、覚悟をしました。迷いません。私は、私として生きて行きます。
目を閉じて歩いても、私が選ぶ明日は、「歌」なのだから。
私が、団地の小さな一室で生まれて初めてのボイストレーニングを行ったのは、それから数ヶ月後のことだった。
◆ボイストレーニングのマミィズボイススタイル
◆濱田真実ホームページ

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その数年前、私は、喘息を発症し歌うことが出来なくなっていた。
毎晩、あらゆる場所に出没して歌の仕事をしていたのに、ステージに立とうとすると、喘息の発作が起こる。胸に力を入れ、呼吸を詰める様にして歌う。そうでもしないと、歌っている途中に咳き込みそうで怖かった。
緊張が続き、疲れ果てた。
全身に、原因不明の痛みも走る。
「もう嫌だ、歌いたくない…」
心も身体も限界に達した時、全ての仕事を捨てて私は逃げ出した。
音楽家である夫に、「もう、歌わない」と告げた。
喘息の症状はほどなく消えたが、歌うことは怖い。
幼い娘に「ママ、おうたうたって」とせがまれても、緊張して子守唄すら歌えない。
今までとは違う生き方、歌わないでいられる道を、必死に模索した。
さまざまなアルバイトに出向いたが、気持は沈む一方。どれも、長続きはしない。
かといって、10代から働いてずっと自分を養って来たせいか、専業主婦をしても息が詰まる。
ようやく大きな企業の派遣社員になり、正社員以上に仕事をこなしたつもりだったが、理不尽に契約を打ち切られた。追いつめられたような気持で、職業安定所に通う日々。
良いのか、これで。
本当に良いのか、このままで。
職安からの帰り道、満足に呼吸も出来ていない自分に気づき、足が一歩も前に進まなくなった。
こんな自分が嫌い。本当に情けない。ダメだダメだダメだ…
ふと目を上げると、目の前に大きな書店の入口が見えた。
初めて見つけた書店だった。
「神様!神様!」心の奥で叫んだ。
「私、今とっても苦しい、苦しいです。私でしかできない仕事をしたいです。でも、それが何だか分からない。どうして良いのかも分からない。私は今、私でなくなっているような気がします。
今から、あの本屋に入ります。私の仕事のヒントになるような本に出会わせて下さい。お願いします。助けて下さい。生きる指針を下さい」
誰に祈って良いのかも分からない。
ただただ心の奥で、叫ぶように祈り続けた。
重い足を引きずって書店に入り、ため息をつくような深呼吸をした。
背表紙のタイトルは一切見ずに、足元を見つめたままで書店の中を歩く。
この現状から抜け出すきっかけが欲しい。その思いだけで、ゆらゆらと歩き続けた。
足が止まった。
手を伸ばし、うつむいたままで一冊の本を手に取る。
本のタイトルが目に飛び込んだ。
小泉文夫著作選集(1) 人はなぜ歌をうたうのか/小泉 文夫

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う、うわぁ…
声にならない声が出た。心臓の鼓動が激しくなる。
本を抱えたまま、ホロホロと涙がこぼれた。
歌…、やっぱり歌ですか…
何万冊もある本の中から、私はこの本を選んだ。
私が選択した、私の明日は、歌…
本を買い、夢中で読んだ。
著者の小泉文夫さんは、民族音楽の研究者。
わらべうたや子守唄、世界中の民族音楽について、溢れんばかりの愛情で語っている。
歌えなくなる以前の私は、民族音楽が大好きで、民族楽器のミュージシャンとバンドを組んで歌っていた。民族音楽は、私にとって自分自身に戻るための音楽だったことを思い出した。
歌いなさい、自由に。
あなたの感じるままに。
生きている歓びを、歌い続けなさい。
本が、私に語りかけてくるようだった。
もう、覚悟をしました。迷いません。私は、私として生きて行きます。
目を閉じて歩いても、私が選ぶ明日は、「歌」なのだから。
私が、団地の小さな一室で生まれて初めてのボイストレーニングを行ったのは、それから数ヶ月後のことだった。
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