島に降り立ち、行き当たりばったりでたどり着いたのは自炊式の民宿だった。
陸に降り立っても、まだ船が揺れているように、地面が揺れて感じられる。
部屋で、しばらく寝込んだ。
当然、誰も訪ねてこない。
急に、どうしようもない孤独感に襲われた。
何やっているんだろう私。
「みんな捨てて来ました。ひとりなんです。どなたかお友達になってください」
そう叫びたいくらい、心細くて、情けない気持ちになっていた。
東京から逃げ出したのに、いざひとりになると何もできない。
島に一件しかないスーパーにフラフラとでかけ、夜の食材を物色した。
新聞も雑貨も食料も一週間に一度だけ、小笠原丸で運ばれてくる。
新聞は、一週間分、まとめて販売。
スーパーの菓子パンや生鮮品は、船が入港した日、みんな凍っている。
新鮮な驚きだった。
仕事もテレビもラジオもない生活。
当然、携帯電話もパソコンもない時代だ。
しなければならないことはなにもなかった。
聴こえて来るのは風と波の音だけ…
ウトウトと時が流れて行く。
目が覚めれば起き、お腹が空けば自分で調理して食べ、日が沈めば眠る。
それだけの生活。
民宿を出ると目の前に浜が広がる。珊瑚の浜。
打ち寄せる波に洗われて、珊瑚が透き通るような音をたてていた。
浜で知り合った女の子の止まっているペンションに移り、そこでもただひたすら、ボンヤリと時を過ごした。
「いつまでの滞在ですか?」同室になった女の子が笑顔で尋ねる。
「別に…決めてません」
「そうですか。この島はそういう人が多いんですよ」
彼女も、一人旅だった。
気が付くと、知り合う人たちはほとんど一人でこの島まで来ている。
友人が増え、夜通しとりとめもないことを語り合った。
つづく
(2002年・夏記す)