「あなたは、どうしたいの?」


「自分で考えて決めてごらん」


6歳の娘に、私は問いかけます。




すると彼女は、「○○したい」「これが好き」「こうなったら嬉しい」と、実に明快に答えてくれます。




ともすれば、親の方が優柔不断で、あれこれと悩みがち。




「こっちの方が良くない?」「こういうのもあるよ」などと、より多くの選択肢を提供しようとするのに、娘はゆるぎません。




そして、選んだ結果に対して、後から決して後悔しない。

淡々と実行し、選んだ状況や物を、とことん楽しんでいます。




「バリっとしていて、いいな~」




ちょっと羨望の眼差しで、この幼いパートナーを見つめる私です。




◆やりたいことはひとつなのに・・・




半年振りに再会した女子大生。


就職活動に気が進まなくて、立ちすくんでいるようです。


「本当は、どうしたいの?」彼女にたずねてみました。




彼女はしばらく泣いていましたが、やがて、ポツンとつぶやくように言いました。




「本当は、歌をうたいたい」




歌声も、素朴で素晴らしいものを持っています。友人や知人も、彼女のことを熱心に応援しています。




「でも・・・」と彼女は言います。




「歌で、生活ができますか?私なんかが、歌ってもいいんですか?

 もし、就職するのであれば、歌は捨てるしかないですよね。

 歌いたいけど、無理でしょう。どうすればいいんですか」




実は、半年前も似たようなことで悩んでいた彼女。


「私、成長してませんね・・・」と、ため息をつきました。




◆声さえ変われば全てが変わるのに・・・




「やりたいことは、はっきりしているんだよ!」




30代の男性会社員は、私に強く言いました。




彼は、発声と腹式呼吸のレッスンを、とても熱心に続けている人です。




しかしどういうわけか、心身ともにいい状態になってくると、決まって、無理な練習をして体を壊すのです。


何度も、その状態を繰り返しました。




意地悪な私は、彼に「本当は、どうしたいの」と聞いてみました。


彼は、押黙ってしまいましたが、しばらくしてこう言いました。




「声を良くしたいだけ。夢もやりたいこともある。オレはそれができるし、自信もある。でも、声が悪いせいで認められない。

声さえ変われば、全て上手くいくんだよ」




それなのに、彼はいい状態になると、自らそれを壊しにかかるのです。




◆やっぱりダメです、私・・・




声や腹式呼吸のレッスンを続けていると、どんな深い悩みを持っていたとしても、少しずつ光が見えてきます。


心身ともに調子が良くなってくるのが、自分でもわかるのです。


すると、急にブレーキを踏んでしまう人たちがいます。




「声は気にならなくなったんですが、私の身体が醜くて・・・」

「声が出ません。私の根性が悪いから、神様が天罰を与えました」

「私、結局何をやってもダメなんです。やっぱり、またダメです」




こんな調子で、10年も20年も悩み続け、ボイストレーナーを転々と変えている人もいます。


悩みやコンプレックスが解消されると、自分のよりどころが失われるかもしれないと、感じているかのようです。

         


◆幸せに生きる




「本当は、どうしたいの?」




ずっと以前、私は自分自身に問いかけたことがあります。

とても混乱して、心身ともに疲れ果てていた時期です。


すると、心の奥底から、実にシンプルな答えが返ってきました。




「私は・・・、幸せになりたい」




小さな声でしたが、それは、私自身の切実な願いでした。




「幸せ?そうか、私は幸せに生きたかったんだ」




その瞬間に、さぁ~っと霧が晴れたように、心の中がすっきりとしたのを憶えています。




できない理由や、ダメな自分を探すのはやめよう。

苦しみや不幸せに生きるのもやめよう。


とにかく、今を幸せに生きてみよう。


そう決心してから、少しずつ、私にも幸せに生きるということが、わかるようになりました。




私たちはみんな、幸せに生きるために生まれてきました。

声も呼吸も、その幸せを支えるためのものです。




「本当は、どうしたいの?」「自分に嘘をついてない?」

「それで、幸せ?」




あなた自身に、問いかけてみてください。

きっと答えは、とてもシンプルなものです。


あとは、ただ、幸せに生きるだけです。




声や呼吸は、その時から、本当に輝き始めます。




(2006年8月30日発行号より)