20代の女の子と話した。
詳細は語らなかったが、とても苦しい日々を過ごしていたようだ。
大勢によってたかっていじめられたと言う。
あまりに怖くて辛かったけれど、こんな目にあうのは、自分が悪かったからだと自分を責めて、目が見えなくなった。
そして、いつの間にか、声も出なくなった。
大人になり、ようやく目は回復してきたけれど、未だに声が自由に出せずに苦しい。
自分の思いを正直に伝えると、人を傷つけるし嫌な思いもさせる。
でも言いたいことがあふれていて、全部ノドのあたりに詰まっている気がする。
そんな苛立ちを、全て私に投げかけてくる。
感情を抑えながら、言葉を選びながら必死に。
本当の気持ちを伝えようと、声をしぼり出す彼女の姿は、自分の生を賭けた闘いのようにも見える。
「あなたがどう思おうと、何を感じようと、それでも世界は美しいの」
私は、唐突に口に出していた。
「それでも、世界はいつも、あなたに語りかけているの」
彼女の思いを受け止めた瞬間に、自分でも予想していなかった言葉が出て来た。
ふっと息を抜き、つぶやくように彼女が言った。
「世界の方が、私に話しかけているんですか…?」
「そう、受け取るも受け取らないも、あなた次第なのよ」
辛い思いをたくさんして来たね。
今も苦しくて迷って、混乱しているのだろうと思う。
でも、外に向って心も身体も開いて行くと、思った以上に世界の美しい響きを感じられるのよ。
受け取る・感じる・受け入れる・感じ取る・・・
それができるようになったとき、はじめてアウトプットが上手くの。
全てに関わろうとしなくても良い。
ゆっくりで良い。
まずは、自分を受け入れて、世界の語りかけている言葉を聴いてごらん。
ふと彼女が微笑んだ。
ふわっと花が咲いたように、あたりの空気が変わった。
とてもチャーミングな人だ。
廊下で、すれ違いながらの短い会話。
彼女の笑顔で、一瞬にして世界が変わり、温かいものがお互いの中に流れ出したように感じられた。
「じゃ、またね~!」
いつの間にかふたりで笑い合い、手を振って別れた。