「家族と会話をするの、面倒臭いんですよね」
「妻と、3年以上まともに口をきいていません」
「家の中で、誰かと話すなんてイヤです」
「食事中も話しませんし、終わると部屋に入ったきりです・・・」
レッスンの時に、よく耳にする言葉です。
一番身近な存在である家族と、話をしない人たち。
年齢性別関係なく、かなり多くの人たちが、身近な人と「話さない」
「話したくない」と言うのです。
要は、自分の本質に関わりそうな人と話をするのが、とても億劫な
のだそうです。
何かを語りかけると、自分の内側が乱れそうな予感があります。
それは、とても怖い。
とりあえず黙っていることで、毎日は波風が立たなく過ぎていきま
す。
「今が楽だから、それでいい」
「いまさら、何を言ったってムダ」
と、彼らは冷めた口調でつぶやくのです。
◆声のレッスンで
彼らが、声のレッスンを始めた理由は、さまざまです。
「大勢の人の前で話すとき、声が通らないから」
「声がこもっているような気がするから」
私は、彼らの希望に添って、レッスンを進めていきます。
でもそんな彼らも、ある時期にくると、パタッと行き詰ってしまう
のです。
実は、声のレッスンで最も大切なことは、自分の声を聴く事、自分
自身を感じることなのです。
「家族との会話がメンドクセェ~」
「しゃべらなくても、自分ひとりで充分です」
と言う人は、他者とコミュニケーションをとる以前に、自分とのコ
ミュニケーションを止めてしまっています。
自己愛が強いように見えますが、まったく逆なのです。
「自分の声を聞いてどう思う?」
「今、何を感じてる?」
「身体はどんな感じ?」
「あなたは、どう動きたい?」
そんな私からの質問に、まったく答えることができず、身動きがと
れなくなるのです。
◆自分の声に耳を澄ます
「わかりません」「何も感じません」と繰り返す彼らの顔は、不安
気です。
長い間、自分の本当の気持ちを無視していたか、抑えつけていたた
めに、感じることが、とても苦手になっているのです。
頭を使って考えることで、必死に分析をしようとしますが、戸惑っ
ている表情は隠せません。
反対に、驚くほどスラスラと「私は、こんな風に感じています」と
答える人もいますが、表情が空虚で、言葉だけが上滑りをしていま
す。
声には、全てが表れています。
自分の声、心の声、身体の声、それに耳を澄ますというのは、とて
も静かで深い行為です。
時には、聞きたくない声も聴こえてくるときがあります。
それでも、耳を澄ますことで聴こえてくる、とても小さな「自分の
本来の声」。
それをキャッチする感性が、私たちには、なくてはならないものな
のです。
◆自分を大切にする
自分の声に耳を澄まし始めると、人は自分自身を大切に扱うように
なります。
自分に、嘘がつけなくなるからです。
「本当は、もっと話がしたかった」
「私は、もっと幸せを感じて生きたい」
「もっと、自由になりたい」
その声を受け止めて、自分のニーズに答えられるようになることが
声をイキイキと輝かせることにつながります。
もちろん、人生の輝きにもつながるのです。
これができて、はじめて、他者の声も他者の奥底に眠るニーズも、
上手くキャッチできるようになるのです。
自分を大切にできる人が、本当の意味で、他者も大切にできる人で
す。
そこから、豊かなコミュニケーションが生まれてきます。
◆多少の波風は覚悟の上で
声は聞いてくれる人がいないと、ただの音です。
この「音」を、誰かが受け取ることで、はじめて「音」は、その人
らしさを伝える「声」になります。
そこに、話術の上手い下手はありません。
必要なのは、自分に嘘をつかないことです。
自分が何を感じているか、どうしたいか、何を伝えたいか。
それを正直に感じて、伝えようとする思いが全てです。
そのために、まず、自分の声に耳を澄ましましょう。
身近な存在との、多少の波風は覚悟の上で、自分の深い思いを伝え
ることから始めてみるのです。
不思議なことに、覚悟が決まれば、状況は動き出すものです。
それは、必ず、あなたにとって、良い方向に流れていきます。
(2006年6月14日発行号より)
◆ボイストレーニングのマミィズボイススタイル