私は歌い手なので、自分自身の内側にあるものを、歌に託して
表現します。
そんなとき、あまりにも「わかって欲しい」「聞いて!!」と
いう想いが強すぎると、歌が饒舌になりすぎてしまいます。
つまり、歌のイントロからエンディングまで、一部の隙もなく
完璧に自分を表現しようとして、とても押し付けがましい歌に
なってしまうのです。
「さぁ、感動して!!」という声が、どこからともなく聞こえ
てきそうな、イヤらしい歌です。
また、キャリアのない新人の頃には、頑張ることが熱意の表れ
と思い込みがち。
自分本位に、全存在をかけて一曲を歌い上げてしまいます。
するとお客様は、どっと疲れて帰ることになるのです。
◆一緒に楽しみたい
自分がお客様の立場になったときに気付いたのは、歌手ととも
に、観客も一緒に歌いたいのだということです。
たとえ知らない曲でも、歌い手の呼吸やメロディに共鳴して、
お客様の心や身体も、一緒に歌っているのです。
いいステージは、歌い手やミュージシャンのブレスのタイミン
グと、お客様のブレスのタイミングが、ぴったりと合ってきま
す。
「ステージと客席が一体になって~」
という表現がありますが、まさに、そんな状況です。
これが体験できると、お客様もミュージシャンも、心地良く満
足して帰ることができるのです。
◆ひとりよがり
ところが、ステージ上の人間が、あまりにも完璧に全てを表現
しすぎると、お客様の楽しむ余地が残されなくなります。
入り込む隙がないのです。
「音程も発声も素晴らしいのだろうけれど、なんだか魅力を
感じないね」
「すっごく頑張っていたのはわかるんだけど・・・」
「妙に、緊張したわ」
などと感想が返ってくるのは、そんな頑張っちゃったステージ
の後です。
◆隙をつくる
ステージと客席は、双方向のコミュニケーションの場でもあり
ます。
けっして「ひとりで背負って立つ」ものではありません。
「ステージは、観客と一緒につくるもの」
と思えるようになってから、私自身も、ステージワークが楽し
くなりました。
全てを説明しすぎない、やりすぎない。
遊び(ゆとり)を持たせる。
ひとりで背負い込まない。
力を抜く、心をひらく、体験を味わう。
呼吸を合わせ、響きを合わせる。
これがステージを楽しむための、私なりのポイントです。
日常のコミュニケーションにも、必要なことですよね。
◆自我を超えて
隙をつくるためには、まず、自分を信頼することです。
そして、相手も信頼します。
完璧でなくちゃと自分を追い込んだり、全てを自分だけで背負
い込んだり、本当の気持ちを押し隠して黙っていたりすると、
自分も人も信頼できません。
呼吸が深まり声も響き、新しい自分を見つけるためには、そんな
小さな隙が必要なのだと思うのです。
(2006年5月12日発行号より)
◆ボイストレーニングのマミィズボイススタイル