「私、女優になりたいんです!」
「劇団四季に入って、ミュージカル女優になりたい」
「売れっ子のナレーターになりたいです」


という希望を持つ方が、レッスンに来て下さるようになりました。


たまたま、同じ思いを抱く方が、同時期に集まったのかもしれませ
んが、彼女たちは全員、30代から40代です。


しかも、ずっと専業主婦だった方や、OLをしていた方が、ある日突
然、目が覚めたように、夢を追い始めるといったパターンです。


◆あと10年若かったら・・・


「10年早ければ、間違いなく女優になっていました。
 今は30歳も半ばです。難しいのはわかっています。
 でも、どうしてもなりたいんです!」


私は、始めるのに遅いということは、何もないと思っています。

年齢制限や入学資格が限定されているもの以外は、いくつになっ

ても始められます。


特に「自己表現」は、まったく年齢に関係がありません。


自分の感動を人に伝える、喜びや面白さを分かち合う、誰かと

共に何かを創造する、そんな場や関係が創れるのは、とても

素晴らしいことですし、生きるためには、不可欠です。


ところが・・・


◆彼女たちの言い分


「今の仕事の契約も切られそうなので、劇団に入れば、いくら

 かはギャラがいただけますよね。安くてもいいんです。
 アルバイトをしながらでも、レッスンは受けられるんでしょう」


「ボランティアや、自主公演は興味がないんです。
 とにかく、売れっ子になって、稼ぎたいんです」


「大好きな俳優が出ている舞台を観ていると、自分の仕事が

 嫌になるんです。早くこんな世界から抜け出したくて」


それぞれの理由は違っているように聞こえますが、根っこの

ところは同じです。


「逃げたい」「認められたい」

あまりにも、短絡的だったのです。


◆もっとも逃げられず、認められない世界


プロとして生きている人は、舞台に乗るまでの長い間、全身

全霊を傾けて努力して生きています。


これは、俳優や女優、ナレーターだけに限らず、自分の才能

で勝負する職業は、すべて同じです。


最も自分から逃げられず、最も認められにくい世界でもあり

ます。


私がそんな話しをすると、


「どうして、そんなネガティブな話しばかりをするんですか!
 私を悲しくさせたいんですか!」と怒った人、


「私なりに頑張っているんですけどね」と笑ってごまかした人、


「では、どうしたらいいんですか」と途方に暮れた人が多かった

のです。


◆大切なのは・・・


彼女たちは、どういうわけか、大好きなはずの舞台を、ほとんど

観ていません。


劇団四季の公演を2~3本観ただけ、大好きな俳優が出ている

舞台を見ただけ、中には、他の人の表現にはほとんど興味がな

いという人もいます。


「趣味で終わらせたくない」という、彼女たちの気持ちはわかりま
す。


でも、自分の才能を活かすことが仕事になる世界は、それを、どれ
だけ深く愛せるか、どれだけ夢中になれるか、どれだけ本気で狂え
るかということが、勝負です。


覚悟がなければ生きられません。


◆夢を生きる


夢を持つことは、素晴らしいことです。


それに向って動き始めることも、苦しむことも、なにひとつ無駄に
はなりません。


でも、「稼ぐ」「ギャラがもらえる」「売れっ子になる」というの
は、夢でも目標でもありません。


これは、単なる結果です。


「演じたい」「歌いたい」「本当に好き」ということを抜かしては
あり得ないことなのです。


とにかく彼女たちは、夢に生きる人生を始めたばかりです。


たゆまなく努力を続け、深く呼吸をし、自分自身も人も幸せに

できる「声」や「表現」を育てていって欲しいなと切望します。


そこには、きっと、本当の自分自身の願いも隠れているからです。


自分の表現で、誰かを幸せにしたり楽しませることは、身近な

環境でも可能です。


そしていつの日か、誰かから拍手をいただけるようになったら・・

誰かと、心から感動を分かち合えるようになったら・・・


それはとても幸せなことだと思うのです。


(2006年2月16日発行号より)




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