「先生、呼吸が自由にならないんです。
息苦しくて、生き苦しいです」
10数年前、私が精神科のカウンセラーを訪ねたときのセリフです。
カウンセラーは笑って「面白いことをいいますねぇ」といいました
が、私は顔面蒼白。(>_<)
そんなことで笑っていられるほど、余裕はありませんでした。
当時の私は、ストレスを溜め込みすぎて、全身がガチガチに固まっ
ていました。
電車で座席に座ったら、腰の激痛に襲われ、立てなくなる。
歩いている途中で、足に刺されたような痛みが走り、突然倒れる。
立ちくらみ、貧血、呼吸困難で眠れない、話せない、歌えない。
まったく満身創痍の状態です。
そのうち精神状態も怪しくなって、外出先で理由もなくぼろぼろと
涙をこぼして泣いてしまったり、際限なく落ち込んで家から出られ
なくなる日もありました。
「もう、限界だ。遠くへ行こう。逃げよう」
私は、決まっていた仕事をすべてキャンセルして、東京から逃げ出
しました。
選んだ場所は、小笠原諸島の父島。
交通手段は船だけです。
しかも二十八時間も揺られなければ着きません。
英語のできない私にとっては、日本語の通じる、世界で一番遠い場
所でした。
強烈な船酔いに苦しみ、ひとりで泣きながら、ボロボロ&ヨレヨレ
状態で小笠原にたどりついたのです。
真っ青な海に圧倒され、さんご礁に驚き、泳ぎ、夕陽をながめ、星
を見て、朝日と共に起きる、そんな生活を、三週間続けました。
ときには海の真ん中で、イルカの群れに囲まれて、歓声を上げたこ
ともありました。
ある日気がつくと、身体のすべての不調が、魔法にかかったように
きれいに消えていたのです。
お日様の光を浴びる、身体を動かす、遊ぶ、三食きちんと食べる、
ゆっくり睡眠をとる。
あたりまえでシンプルな生活を続けただけです。
それだけで、細胞がすっかり入れ替わったように変わりました。
身体の内側から、生きるエネルギーが湧き出してきたのも感じたの
です。
そのとき初めて、自分がどれだけ、自分を追い詰めていたのかがわ
かりました。
自分を愛しむ(慈しむ)ことがなければ、誰かを愛することも、幸
せに生きることもできないことにも気づきました。
不調を感じているときは、無理をしないで休む、心や身体が喜ぶこ
とをする。
そこには必ず、深い呼吸が関わっています。ゆったりとした呼吸な
しには、リラックスは在り得ないからです。
呼吸を深めることで、心も身体も、そして声も変わります。
自由な呼吸を失うことは、あらゆる可能性や、喜びも失うことにつ
なるのです。
私はこのところ、たくさんの方にお会いする機会をいただいていま
す。
呼吸や声の自由を見失って、「自分なんて大嫌い!」と言っている
人の、寂しげな眼差しが心に残っています。
以前の私が、眼の前にいるようです。
あの時のように、仕事を全部放り出して逃げるようなバカな真似は
しなくても、何か方法はあるはずです。
きっと、大丈夫です。
どうかあなたの呼吸を、幸せな体験へと深めていってください。
(2005年11月3日発行号より)
◆ボイストレーニングのマミィズボイススタイル