「ラ・マンチャの男」というミュージカルをご存知ですか?


スペインの作家・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」が原作の
作品で、日本では松本幸四郎さんの主演で長く上演されています。


私の大好きなミュージカルです。「見果てぬ夢」という有名な曲も
ありますね。


 『では、一体狂気とは何だ?ほんとうの狂気とは?

  現実だけを追って、夢をもたないのも狂気かもしれぬ。
  夢におぼれて、現実をみないのも狂気かもしれぬ。

  だが、なかでも最も憎むべき狂気は、ありのままの人生に
  折り合いをつけて、あるべき姿のために闘わないことだ』


ラ・マンチャの男の最も重要なシーンでの台詞です。


あるべき姿のために闘う・・・。


どうあがいても変えられない過去や、どうもがき苦しんでも変わら
ない事実には、素直に明け渡すことも必要です。


でも、自分のあるべき姿のためには、精いっぱい闘う。


これは、生きていくためには、不可欠なことだと思うようになりま
した。


◆あるべき姿って?


自分自身を、取るに足らないつまらない存在だと思い込んでいたと
き、この「あるべき姿のために闘う」という意味が、私には解りま
せんでした。


年齢を重ね、さまざまな経験を経て、この頃ようやく自分にも、わ
ずかな光が見えて来たような気がします。


誰にでも平等に与えられている「尊厳」に気付いたからかもしれま
せん。


人は生まれた時、神々しささえ感じられるほど、美しい生命力を持
って生まれて来ます。


赤ちゃんを見ているとつくづくそう感じます。


この誰にでもあった尊い時期が、本来の「あるべき姿」なのだとし
たら、もっと自分の命の尊さを信じて生きていきたい、自分の命に
対して、失礼な生き方はしたくないと思ったのです。


自分が望んだ生き方を全うする為に、きちんと闘わなければいけない

時期って必ず来ます。


今までと同じ事を繰り返すのはもう嫌だと、胸の中でもうひとりの
自分が叫ぶときが来ます。


のほほんと生きて行けたらいいやと思っても、状況がそれを許さな
くなるときもやってきます。


そのときがチャンスです。


私も「私のあるべき姿のために闘う」、そして「覚悟をして生きる」
と決めてから、さまざまなことが動き出したような気がしています。


◆闘う相手は誰?


自分自身を信じて、自分と良いパートナーシップを築いて行くため
には、自分と闘う時期が必要なのかもしれません。


声のレッスンをするとき、身体の使い方の癖や、心の癖、しゃべる
ときの癖などが強い場合、それを改善するのには、時間がかかりま
す。


数時間のレッスンなどでは、変わることはできません。

自分の苦手なこと、できないことを見つめていく作業でもあります。

これは、思っている以上に大変です。


だって、子供のように「あいうえお」の発音からやり直すワケです
し、細かいチェックを受けて、何度も何度もトライしなければなり
ません。


プライドも邪魔します。


でも、やってみて初めて「こんなに息が漏れて、聞きづらい声だっ
たんだ」とか「ら行が、まったく言えてなかったのね」と気づくの
です。


自分の嫌な面と向かい合い、地道な努力を続けることで、必ず結果
が後からついてきます。


でも、一足飛びに結果はでません。


◆自分との闘いを楽しむ


本来持っていた輝きや、自分らしい声を取り戻すというのは、自分
の自尊心を取り戻すレッスンでもあります。


つまり、あるべき姿のために闘うことにつながります。


声のレッスンなんて、本当に些細なことかもしれませんが、これも

大きな一歩です。


「闘う」なんて、大げさかもしれませんね。


でも、精いっぱい闘って勝ち取った自分の輝きは、しなやかで強く
て、美しいものです。


ちょっとのことでは揺らがない、たくましさもあります。

誰かを幸福にすることができる、輝きでもあるのです。


やっかいな自分との闘いを、楽しめるのも自分だけ。


声のレッスンを通して、そんなことをお伝えすることができたらい
いなと思う、今日この頃です。

(2005年10月12日発行号より)



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