Dさんは40歳代の女性です。
4年ほど前に、私の所を訪ねて下さいました。
初回のレッスンを始めた時のことです。
床に寝て、臍下丹田を意識しようとすると「怖い!」と言って飛び
起きてしまいました。
彼女は、呼吸を意識すると、何とも言えない恐怖心が心の奥の方か
ら突き上げ来るのだそうです。
実際、何度チャレンジしてみても、呼吸は胸の上部を使うだけで、
リラックスはおろか、いつもの呼吸すら荒くなるような状態でした。
何が彼女に「怖い」と言わせているかは解りません。
でも、呼吸も声を発することも、心とは切り離せない機能です。
自分の内側を見つめる作業が始まりました。
レッスンは、何も特別なことはしませんでした。
私は無理強いはせず、時には彼女の気が済むまでおしゃべりをした
り、簡単なエクササイズを楽しんだりして時間を過ごしました。
それだけです。
それでも彼女は、遠い所から根気良く通って下さいました。
辛い時期もあったと思います。
そして今、彼女は自分で歌を創るようになり、歌い始めました。
驚くほど個性的な世界を表現しています。
私は呼吸が豊かになると、生きる力も強くなり、創造力も高まると
考えています。
生命力と創造力はひとつのものだからです。
歌っている彼女を見ると、しなやかにリズミカルに腹式呼吸を繰り
返していました。
心の中に、雪解け水のせせらぎがふと浮かびました。