ロシアの音楽大使は世界的ヴィオラの名手
ロシアから凄い男がやってきた。
その名はユーリ・バシュメット。
これまで脇役とされてきたヴィオラを主役楽器へと昇格させた立役者である。
1976年のミュンヘン国際音楽コンクールで優勝を飾り、それ以来、世界各地の名だたる大ホールで史上初となるヴィオラのリサイタルを成功させてきた。
1992年、今や伝説的となった室内楽団「モスクワ・ソロイスツ」を結成し、自ら指揮をしながら公演ツアーを重ねる身。
彼の演奏を聴くと前人未到の正確さと天上界のごとき柔らかで優美な音色が醸し出す至福感に圧倒される。
今回、東京で開催された同楽団の創立20周年記念コンサートにはヴィオラの演奏で知られる皇太子殿下もお越しになり、熱心に聞き入っておられた。
注目すべきは、この記念イベントのスポンサーである。
ロシアの経済近代化をけん引する「ガスプロム・グループ」だ。
折しも、ロシアではプーチン大統領の下、新たに設立された「極東開発省」の初代大臣にイシャーエフ極東連邦管区大統領全権代表が就任。
その第一声は「2050年までを見据えた極東開発計画を進める。今後10年間で3.3兆ルーブル(約1060億ドル)を投資したい。特に、中国と日本からの投資を大歓迎する」。
わが国では福島原発の事故以来、電力供給の先行き不安から石油や天然ガスの輸入拡大が続いている。
そのため、ロシアのガスプロムは日本のエネルギー供給に欠かせない存在となった。
いわば、日本は大のお得意様になったといっても過言ではないだろう。
そのせいか、かつてのソ連時代とは様変わりのサービス精神あふれるスポンサーぶりだった。
ガスプロムのメドベージェフ副社長は「世界の音楽遺産の優雅さをお届けできたと思う」と自信たっぷりの挨拶。
実際、その通りだった。
ロシアの音楽芸術の奥の深さを堪能させて頂いたが、いやはやロシアの新たな文化外交戦略は何とも無視できないのである。