すっかりこゝろ閉ざした女が

どうしたことか私にだけは秘密を打ち明ける。

私たちは椎名林檎の音楽の話をする。

『歌舞伎町の女王』については周到に敬遠し

『罪と罰』を好んで話し合う。

小ぢんまりしたカウンセラーを遣り過ごし

彼女はカップを傾け炭酸飲料を飲む。

ゆっくり煙草を吸って

小首を傾げながら私に向かって微笑する。

道端に立ち竦み私の腕を引っ張り

いやいやと首を振り

このままじゃいやと言う。

私は医者とは違い病んでるとは看做さない。

ひどく若い彼女の痩せ細ったカラダを

見つめているだけだ。

誰とも決して話さない彼女の

豊かな表情を私は知り尽くしている。

昼夜逆転している彼女の暮らし

他に友と呼べる者もなく

極度に孤立してはいるが

穏やかさを保つそれも彼女の知恵だから

黙って私はそばにいる。

男女の友情などあり得るはずもなく

押し寄せる快楽に耐えることの間違いに

気づいている私たちは頬寄せ合って

互いの口許を誘う。

唯一のそれが彼女の憩い

なければとっくに死んでいる。

憔悴を防ぐために私たちは口で口を塞ぐ。

カーソン・マッカラーズが好きよと彼女は言う。

貴女は誰にも似ていない。

貴女には今の貴女らしさが似合ってる。

女らしさでもなければ

人間の温かみでもなく

今の貴女のままでいい。

決して病んでいない。

貴女の口は随分と柔らかい。

私でよければ何度でもキスしてあげる。

好ましければ一緒に旅行をしよう。

希望に裏切られた私たち二人きりで。