こんにちは♪
つい先程、私の隣室で孤独死がありました。
警察へ通報したのはこの私です。
最近、異臭がひどいので、
階下の住民仲間に相談したところ
「ひょっとしたら…死んでるのかもしれない」
との噂が持ち上がり
「はまちゃん、警察へ知らせたほうがいい」
と指摘されました。
どうやら私の隣室からの異臭で
夜も眠れないくらいの臭いなので
直ちに警察に電話しました。
「異臭、って、どんな臭いですか?」
女性の警察官が電話口で訊くから
ちょっと言葉に屈しながらも私は
「生物の腐敗臭にも似ています」
と、返答し
たまたま私は出先でもあったから
「10時30分から40分の間に落ち合いましょう」
と警察へ要請しました。
出先から戻ったのが午前10時23分でしたが
まだ警察官が来訪しておらず
仕方なく私は部屋で待機していました。
午前10時27分にやっと警察官が来て
私は彼を自室に招じ入れて
「ベランダから臭いがするでしょう?」
と、打診しました。
巡査部長の彼は鼻をクンクンさせ
「確かに」
と言いました。
「上のフロアかもしれませんがご対応お願いします」
私は巡査部長に依頼し
彼は無線で警察署とのやり取りを経て
管理会社に連絡してくれたものの
生憎、日曜日で管理会社はお休み。
次善策としてレスキュー隊を彼は呼び
そうこうするうちけたたましいサイレンが鳴り
何十人もの警察官と救急隊員が
私の部屋に押し寄せました。
私は大学が法学部法律学科で
法医学も勿論しっかり修めているから
この手のことには慣れています。
加えて伯父は警視正でした。
レスキュー隊が私の部屋のベランダから
隣室へ命綱をしめながら入りました。
小高いフロアだから大変だったと察します。
そして午前11時50分に隣室男性の死亡を確認。
救急隊員は警察へと引き継ぎし
私は警察官からの幾つかの質問に返答
勤務先など事細かにご説明しました。
異臭により私には嘔吐感が付き纏い
とりあえず吐き気止めを服用しました。
事件性のある案件なのかどうかを鑑識が調べ
やがて専門の医師が駆けつけて
死因を特定すると共に
ご遺体を警察署へと移送しました。
私は警察官からも消防隊員からも
「ありがとうございます」
と感謝されました。
人の死体臭というのは
説明困難な異常な臭いです。
隣室男性は死後一週間は経っているはずです。
記憶に残る異常な臭い。
腐敗したご遺体を私は想像するのですが
ただただ憐れです。
私は彼の名も知りません。
彼はここへ引っ越してまだ一年も経っていない。
このマンションで彼を知る人はいないみたい。
マンションでは
他の住民と仲良くするのが鉄則だと思う。
私は他のフロアの住民たちと実に仲良しです。
そうでもしないと不測の損害を被ったとき
誰も助けてくれません。
逝去した隣室では
お葬式さえないんだと思います。
お坊さんが来るでもありません。
たまに会った隣室のおじさんを想起します。
「こんにちは」
私が挨拶すると彼は会釈しました。
こんにちは
私が言っても、もう返事はありません。
彼の生涯をなんとなく私は想像します。
この東京で
ひとり何も言わずに旅立ったのです。
誰も看取る人はなく
私からの通報で。
ご冥福をお祈りします。
明日、仕事帰りに、近所の交番へ行き
逝去した彼への手向けとして
花束と缶ビールを持参するつもりです。
お酒がお好きな方でしたから。
アメリカの小説に
『エミリーに一輪の花を』
とかいうのがあります。
彼の墓前に飾るよう、警察へ要請します。
お花を手向けるのは
私ひとりだけなのかもしれません。
