私は小さな飲食店で働いている。





夕方の店をオープンして間もなく、



「あ、一人、、」



少しオドオドしながら入ってきたのは、近所に住む、色メガネをかけた、ヤンキー風のお兄さん。



「あ、今晩は!お久しぶりですね。」



「あ、覚えてんの?」



と、少し驚いた様子で返された。




え〜え〜、そりゃもう、覚えてますとも。




その色メガネの彼が以前、我が家に来たのは一年ほど前だっただろうか。




キレイな女性と一緒にやってきて、お酒をぐいぐい呑んでいた。




一見すると神経質そうな、強面の方なのでこちらも気をつけていたつもりだが




その日は店がえらく忙しく、



キッチンとホールを行ったり来たりしていた為、




気づけば彼が「すみませ〜ん!」と呼ぶ声を聴き逃していた。



何度目かでようやく気づき、「ごめんなさい!」と小走りでテーブルに向かうと



「おめーよーっ!耳ついてんのか!?ああっ!?」



と色メガネの奥からでっかい声で怒られたのだ。



丁重に謝ったため、その場は済んだが、



滅多にいないタイプの客なので忘れる訳がない。



と、思いつつも、



「お客様は神様ですっ!」の代表取締役として



積極的に元気よく彼への接客に勤しんだ。





それがいけなかった。。。





気分を良くしたのか、ウザい接客と感じたのかは分からないが、色メガネの彼は、次々にグラス(酒)を空け、2時間も経たず、1瓶を飲み干した。



色メガネの彼はすっかりベロベロの酔っ払いになった。



どのくらいかというと、



目の焦点は完全に狂ってる上、まっすぐ歩くどころか、立っていることもままならないし、



むき出しの札束と、携帯と鍵をテーブルに置いたまま、長い間席を立つくらい酔っ払っていた。




そこへ子分のような方がやってきたので
「おー、救世主!連れて帰ってくれる!これで一安心!」と思ったのもつかの間、





「〇〇さん、もう、その辺にしたほうがいいっすよ。オレ、〇〇さんのこと好きっスけど、


車なんで、、、



帰りますっ!」




そう言って来て早々、さっそうと帰ってしまった。
待ってくれー!行かないでくれー!!



そうこうしているうちに色メガネの彼は他のテーブルで食事をしていたある業種の有名人の紳士を見つけ、



「オレ、アンタのこと知ってるんすよ〜。ここいっすか〜。」と向かいの席にどかっと座り、何やら絡み始めた。



気が気じゃない私は側を行ったり来たり。



しまいにはその紳士に向かい、「おい、オレと一緒に仕事する気ある?なあ、あんのかよ!?」などと声を張り上げ出したもんだから




たまらず「ごめんなさーい!閉店のお時間です〜」と伝票を持って割って入った。



すると目が宙を舞う色メガネの彼は



「オレ、金だけはいっぱいあるからさ〜」と



束になった万札の札束をバラバラ床に落とした。



それをかき集め、代金分だけ頂き、お返しすると



「ホントに金だけはいっぱいあんだよ〜」と



また床にバラバラと落とした。
もうわかったよ!



これ、繰り返すこと3回。
はあ〜、疲れる〜



むき出しの札束を小さなポーチにつめ、携帯と鍵を握らせようやく店から出した。



が、まっすぐ歩けていない様子を兄が心配し、



家は分かっていたので「家の前まで連れて行くよ。」と付き添った。




が、出たっきり、待てど暮らせど兄は戻ってこない。



こちらが心配になり、見に行くと兄は



暗い夜道のど真ん中で



「ホントに!?ホントにオレのこと心配してんの?嬉しい!」と色メガネから熱い抱擁を受け、共に倒れこんでいた。カオス。



見かねて近寄り、「もう、その辺にしたら?」と兄に声をかけると倒れかかった色メガネが突然、



かがみこんだ私のデニムに乗っかったお腹の肉をガバっとつかみながら起き上がり



「ハレ?ちょっ!ねえ!付き合って下さい!!」と、直角にお辞儀したあと、ぐわしっと腕を掴んできた。



ひーっ!はいっ!撤収ー!!



掴まれた腕を懸命に振り解き、兄を置いたまま、人でなしの私は逃げた。



心優しい兄はその後、なんとか彼の住むマンションであろ
うところまで行き、貴重品をしっかり握らせて戻ってきた。






そして次の日、想像していた通りに



大金と鍵がないっ!と、子分より電話がかかってきた。




あれだけ苦労したのに、可愛そうな兄である。




お客様に   お願いです。




お酒は   ほどほどに。



またのご来店、お待ちしています。