ぼくは旅にでた(杉山亮 著 径書房)
ISBN 978-4-7705-0121-9
これも面白い本だった。
徒歩で、埼玉(多分)から金沢・富山まで、行って帰ってくる「物語」だ。
「物語」と書いたのは、
ぼくには、紀行文や旅文に思えなかったためだ(良い意味で)。
旅に出る場合、具体的な物を探して、と
精神的な何かを探して出る場合があると思う。
この著者の場合、後者。
歩き旅で、流れていく風景や出来事の描写があるが、
面白おかしいハプニングは特にない。
圧巻は、後半「何か」を「悟られた」様子が「とにかく」「伝わる」。
「かっこ」付けの抽象的な感想で心苦しいが、
著者自身も明言できないことを、どうして他者が語れよう。
とにかく、伝わって来るのである。
最近は、めっきり一人旅をすることがなくなってきたが、
ぼくも、テントや寝袋を持って(ぼくの場合、バイクに載せて)
時折、旅に出る。
著者とは違って、出た先々の風物や食べ物を具体的に楽しんで帰ってくるが、
この本のような旅も出来れば最高だ。
この本の内容では、人によっては、何が得られたのか、
何がうれしいのか、その得られた「何か」の価値が、きっと判らないと思う。
筋の展開は、この本が自費出版風のものでなく、
著者がエッセイストでもなく、れっきとした作家ゆえ、
いささか、上手く物語展開をされたか、と思えるような節回しはあるが、
それを割り引いても、ぼくが読んだ旅の本で、
充実した読後感は、個人的には上位に挙がる。
羨ましく思ったのは、6月真っ最中の旅にも関わらず、
雨に、さほど苦労されなかったこと。
まず、ぼくは、雨の日や時期には、野宿旅には出ないので、
その辺りのノウハウを期待していたが、その点は空振りだ。
道中、本格的な登山ルートも経由していると思うが、
簡易な装備で、トラブルなくクリアされたのも驚きだ。
この辺りは、装具の紹介をされているページもあり、
軽量旅・シンプル旅を目指される方の参考にもなるだろう。