♪ 止まらないで 自分の道を 少し間違っても いいから 脇目もふらずに…
チャップリン張りの洋服に身を包んで、ステッキ片手に歌っている彼女の姿を、私はついこの前、モニターで見た。10月末、相方と1時間だけカラオケに行ったのだ。
私が歌ったのは、「Oneway Generation」。お気に入りの曲だ。でも、歌うのは本当に驚くほどひさしぶり。
♪ 人ごみの真ん中 今いる場所さえわからないように
自分の生き方が 見えない時ってあるよね
話してはみたけど、言葉が一方通行みたいで
遠くの夢なんて 大人は判ってくれない。
「そう、こんなに可愛いんだったよね。」
セクシー系に転んだ時期も長かったけれど、私はこの歌に触れたときの自分の感想を思い出す。
「好きだと言いなさい」ってデビュー曲だったかな、その頃に帰ったみたいだ、と。
しかし何故、私は 彼女が死の床に就いていることも知らず、そのときこの歌を選んだ?
♪ 「さよなら」の代わりに 手に入れたものは
小さな自由と大きな悲しみと 中くらいの想い出だけさ
そんなの偶然だよ。ただの思い付き。目に留まっただけ。それを私は気の向くまま選んで、歌った。
でも…。
数ある曲の中から? 普段のレパートリーでもないのに? あの分厚い本の中から? たった1時間だったのに?
…こうなると、もうなんだかわからなくなる。
わかるのは本田美奈子という人間がこの世から去ったという事実だけだ。
アイドルとして低迷しつつあった彼女は、舞台でもう一つの彩を開花させ、開花させ、開花させた。
生の道を走っていた。
この世の誰もが走ってはいるけれど、有名な人は不特定多数にその走りを見られ続ける。そして彼女もその走りを見せつけていた。芸能界から、私たちに。病いになっても。
そして、フィナーレを迎えたのだ。
♪ 止まらないで 自分の道を 少し間違えてもいいから
有名な人の死はニュースとなる。その家族は、その友人は、その関係者は、そのファンは涙するだろう。そして、不特定多数は話題にして、忘れていくだろう。
見せつけるだけの魅力がある人間の死。自分にかかわることなど一度もなかったその人がこの世に生きていた、そして消えた。その事実は、ある人々の心に一石を投じる。心の湖を揺らめかせたり、心の鏡を割ることもある。そこに意味があるのだ。そう、信じたい。
芸能人だけではなく、惨い事故や災害、戦争、テロ、猟奇殺人などの餌食になったたくさんの人たちもそうだ。私は彼らを知らない。でもその事実を覚えていて、役にも立たないのに心を痛める。
自分に関係のないすべてが、ただのテレビの向こう側のニュースだとしたら、どうなるだろう?
濁流の中の流木のようにすべてが往きすぎ、私の中に何も残らないのだとしたら?
死は忌わしいもの、そして恐ろしいものとして現代社会で捉えられがちで、正直、私も怖い。
でも、それは必ずやってくる終着駅で、誰もが迎えるのだ。
ならば、見てやろうじゃないか。覚えていたいじゃないか。思い出したいじゃないか。
……。
このようなことを考える機会をくれた本田美奈子の生き様に、合掌。そして、感謝。