光を求めて/追想…ピンク・フロイド初期シングル日本盤(2) | プログレッシブBBSの思い出_ピンク・フロイドmemorandum

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「エミリーはプレイガール See Emily Play」に続いて、日本で発売されたピンク・フロイド2枚目のシングル「光を求めて Let There Be More Light」。
B面は「追想 Remember A Day」です。


このシングルは、日本とアメリカだけでリリースされています。
アメリカでの発売は、68年8月でした。2曲の収録アルバム『A Saucerful of Secrets』が、ひと月前の7月に発売されています。
日本盤「光を求めて」の発売時期は、ジャケット内側の解説(ライナーノーツ)の内容から判断する と、69年になってからリリースされたのではないかと思われます。



解説担当は、平田良子氏。
内容は主にピンク・フロイドについての紹介ですが、終わりのほうには「光を求めて」の批評があります。
このラーナーノーツ冒頭から少し引用します。



 Musician は Masician(魔法使、魔術師)である。特に、最近のニュー・ロックのミュージシャン達は、髪もひげも、もじゃもじゃにのばし、ノッポの体に時代がかった極彩色のコスチュームをまとって、魔法使顔まけのスタイルをしている。

 (中略)

 2年前、イギリスでは、ピンク・フロイドがいちはやく、ライト・ショウをステージにとりいれ、アンダー・グラウンド・グループとして注目を集めた。イギリス、アメリカでは、“See Emily Play” をはじめ、かなり評判になったナンバーもあるが、ピンク・フロイドは、ヒット・レコードを出すより、自分達のテクニックのかぎりをつくして、音とイメージの世界をくりひろげることのできるステージ演奏に、大きな情熱を傾けていたようだ。

 (中略)

 メンバーは、魔法使いの弟子が4人、リック・ライト(オルガン)、ニック・メイゾン(ドラムス)、ロジャー・ウォーターズ(ベース・ギター)、そして、リード・ギターのシド・バレットがグループをはなれ、新しく、デイヴ・ギルモアが加わった。



  魔法使いの弟子ですか……。
 それはさておき、メンバーの名前を挙げる順番の最初にリックが出てくるのが興味深いところです。

このシングルのB面「追想」の作詞作曲リードヴォーカルだからというのもあるのかもしれません。でも、それよりは、この時期からフロイドのサウンドが、 リックのキーボード(主にオルガン)で味わい深いものになっているということを重要視しているからではないかなという感じがします。

フロイドの近況や演奏について語られている部分からも、少し引用しましょう。


 最近も、一層、情熱的な活動をしているが、ピンク・フロイドの魅力は、やはり、生のステージ演奏であろう。ホールで公演する度に、聴衆が当惑するような、こみいった仕掛けの電気操作を駆使して、ユニークなショウを試みる。また、レコード製作では、自分達のアルバムの他に、映画のサウンド・トラック用のアルバムも作っている(最新アルバムは “More” というサン・トラものである)。さらに、オーケストラと組んで演奏するコンサートも計画中で、ボストン・フィルなど管弦楽団とも接触があるという。

 (中略)

 最近のピンク・フロイドは、単なる、電気装置と映写機によるライト・ショウにあきたらず、演奏を通して、光と影を詩に結びつけ、“幻想の世界”をつくり出そうとする意欲をみせている。ピンク・フロイドこそ、現代の Magician なのかもしれない。

 (中略)

 
 光を求めて


 イントロは、アップ・テンポのベース・ギターにはじまり、パーカッションがひびき、リード・ギターが加わる。つづいてオルガンが東洋的なメロディーをかなでる。後半は、ファズ・トーンをきかせたギターがフューチャーされ、ハイ・ハットやシンバルの音が効果的に使われている。なかなかみごとな構成といえよう。曲の中程、テンポがゆるやかになり、ギター、オルガン、ドラムス、そしてヴォーカルとが一体になって、とどろきわたるように盛り上がる、クライマックスが印象的だ。

  孤独な暗黒の世界、空に何か小さく輝くものがある。その一すじのきらめきをてがかりに、より大きな光を求めて、闇の中にうごめく生物。それは、とりもなおさず、渾沌としたニュー・ロックの世界で、現状に甘んじることなく、常に前進しようとする、ピンク・フロイド自身の姿にほかならないだろう。(解説 平田 良子)




写真及び参照資料 : http://pinkfloydarchives.com/


「光を求めて」解説文の前に出てくる光と影を詩に結びつけ、“幻想の世界”をつくり出そうとする意欲〉、それは、この時期ですから、ほかの曲についてもロジャーとリックがかなりがんばったわけですが、ロジャーの作ったこの歌詞は、シドが1stアルバムで見せていたような、非現実的な夢と幻想の世界を引き継いでいるような感じなんですよね。

 Oh my, something in my eye, eye
 Something in the sky, sky
 Waiting there for me
 The outer light glows swirling back
 The service man were heard to sigh
 For there, revealed in flowing robes
 was Lucy in the sky

 私の瞳に映る何者かが
 あの空に姿を潜める何者かが
 私を手招きして呼んでいる
 船は妖しい光を放ちながら輝き
 軍人どもは皆 嘆息を洩らす
 長衣の裾をひるがえして現われたのは
 空を支配する魔王ルーシー

 山本安見訳『ピンク・フロイド詩集』より
(1978 シンコー・ミュージック刊)


Lucy in the sky〉の登場にはドキッとしたものでしたが、ビートルズのあの歌も大好きでしたから、初めて聴いたときにはなんとなくうれしかったのも覚えています。

なお、英語の歌詞カードは聞き取りによるものが採用されていた時代なので、ここに紹介した詞は、現在流通しているものとは一部異なっています(「光を求めて」シングル盤付属の歌詞とも、一部異なっています)。
結果的に、和訳も細部で異なってくるのですが、この歌に関しては、山本氏の訳が雰囲気的にうまく作られていると思うので、あえてこのバージョンを選んでみました。


この「光を求めて」が発売された頃は、ニュー・ロックという言葉が現役だった時代なのですね。
ジャケットの写真にも、上のほうに
new rock BEST HIT SERIESという文字が並んでいます。
ジャケットの裏面には〈オデオン・ヒット
・レコード〉として、ジェフ・ベック・グループやアダモなどの新譜のリストがありますが、ロック系とイージーリスニング系がひとまとめになっているというのも、この時代らしいところなのかもしれません。


Front



Back

ところで、このシングル盤のジャケットは、アルバム『神秘』裏面の写真をそのまま使っているのですが、その『神秘』の68年盤(第1版)では、この白黒コラージュ写真は、まだ使われていなかったのでした。


Front



Back


写真及び参照資料 : http://pinkfloydarchives.com/

68年盤の裏面は、曲目とライナーノーツです(解説:八木誠氏)。
ちなみに67年12月発売の『サイケデリックの新鋭』のアルバムジャケットも同じようなもので、裏面は曲目とライナーノーツ、ジャケットの中に片面印刷の歌詞カード(英語のみ)となっています。

アルバム『神秘』の裏面がオリジナルと同じになるのは、74年発売の第3版か第4版あたり。その頃になると歌詞カードも日本語対訳つきで、ライナーノーツ(解説:渋谷陽一氏)もそちらに含まれています。
『神秘』それぞれのライナーノーツについては、いずれ別の記事で紹介したいと思いますので、このぐらいにしておきます。


では、「光を求めて」ライブバージョンを……。
これはフランスのTVに出演していたときの映像。
スタジオがディスコティックになっていて(ディスコクラブに出張して撮影したのかも)、当時の若者たちのファッションも楽しめます。


Pink Floyd - Let There Be More Light (06:23)



もうひとつ、これもフランスのTV放映。
68年秋の映像です(時期的にはこちらのほうが先になるのかもしれません)。
デイヴのヴォーカルがワイルドというか、荒削りというか、やけっぱちな感じのところもあるような気も……でも、がんばってますデイヴ。


Pink Floyd - Let There Be More Light (03:38)



「光を求めて」は、アルバム『神秘』では1曲目になるのですが、これが “サイケデリック”フロイドの最後の曲のような気もします。アルバムのほかの曲は、ジャズロック風がやや多めになっていて、あとは、ガレージポップス系とかフォークロック風味とか、そんな感じですもの。
『神秘』2曲目の「追想」は、このシングル盤でB面になりました。シングルカットがアルバムの1曲目と2曲目というのも、ちょっとめずらしいケースかもしれません。

では、最後に、作詞作曲ヴォーカルがリック・ライトの「追想」を……。

 Why can't we play today?
 Why can't we stay that way?

 Climb your favourite apple tree
 Try to catch the sun
 Hide from your little brothers gun
 Dream yourself away


 なぜ 僕らは遊びつづけることができないのか?
 なぜ 幼ないままでいられないのか?

 きみのお気に入りのリンゴの樹に登って
 太陽を捕まえようとしたあの日々……
 小さな弟の水鉄砲から逃れて
 夢幻の世界を浮遊していたあの頃……

 山本安見訳『ピンク・フロイド詩集』より
(1978 シンコー・ミュージック刊)

リック追悼バージョンのスライド写真集です。

Pink Floyd - Remember A Day (04:04)