ある朝、職場の喫煙コーナーで、張り紙付き自転車を見つけた。
「なぜ駐車違反を守れないのですか?
次はサドルを預かる等の処置を執らせてもらいます。」
サドルを預かるのくだりは赤い文字。
強い意志を感じる。
確かにこの自転車、いつからか喫煙コーナーに停められるようになり、それに便乗するように何台かが停めるようになり、しかし、ある日「駐車違反です。」の貼紙と共に、自転車は撤去された。
それで暫く姿を見なくなっていたら、何日か前からまた現れた。
建物の外にあって、人目を避けるように設けられた喫煙コーナー、自転車を停めるのにも充分な広さがある。
駐輪場まで行くのが面倒だと感じたら、ここに停めると都合が良さそうだ。
しかし、
疑問文から始まる警告には、怒りすら感じる。
"サドルを預かる等"
たぶん、サドル、持ってっちゃうけどいいの?の意味。
駐車違反の貼紙に果敢に抵抗した持ち主の反応は?
それでも挑み続けるのだろうか。
やっぱり…、
サドルを持ち歩くのか!?
無い物を預かれるわけもなく。
自転車の持ち主がどんな人かはわからないが、
朝喫煙コーナーに自転車を停めて、サドルを引き抜く。
自転車にあまり馴染みのない私にはそれがどれくらいの手間か分からないけれど、規則に背くならそれくらいの手間は厭わないだろう。
きっと。
サドルをそのまま手に持って歩いていたら、そいつが犯人だ!
いやいや、そこは世間に背を向け駐車違反を続ける兵(つわもの)。
サドル分バックが大きくなるかもしれない。
専用の紙袋に入れて持ち歩くかもしれない。
もしかしたらエレベーターで、一緒になった人の紙袋の中にサドルを見つける時がくるのかも。
その時私はどうしたら…。
再三の警告にも耳を貸さず、己の赴くままに行動する屈強な精神。
「変わった形の筆入れですね。」などと明るく話しかけられるだろうか。
いや、エレベーターの中には沈黙が流れるだけだ。
しかし、降りる時は、その顔を見てみたいという欲求に勝てるだろうか。
今の私には自信がない。
エレベーターを降りて、ドアが閉まるまでのほんの数秒。
振り返った私は…。
!?
タバコ終了。
かっえろー。
次のモクモクタイムには、自転車はなくなっていた。
管理側と自転車の持ち主の攻防は、終焉を迎えたらしい。