「ヴィタール」
。塚本晋也監督の力作だ。この映画は事故で記憶を失った医学生が、解剖実習を通してその空白を埋めていくという物語であるが、その根底には、人間の肉体と記憶を軸にした究極の愛がテーマとしてあるように思う。医学生は解剖にのめり込むうちに、フラッシュバックのようにめくるめくイメージが浮かび上がり、そしてそのご遺体が自分の事故で死んだ彼女だとわかる。巡り会うべくして巡り会ったと思わされるシチュエーションに我々は息を呑み、肉体とはなにか、記憶とは、愛とはなんたるかを考えさせられる。 塚本監督の15年以上におよぶ専門書の読破、10ヶ月におよぶ解剖学者や医学生への取材、そして解剖実習の立会見学から生み出された演出は本物だ。 (★★★★☆)
映画鑑賞の際には、パンフレットの購入をお薦めしたい。総ページ数320ページ(B5サイズ)にもおよぶこのパンフレットは、単なる映画の付録ではない、本としての価値がある。(シナリオ付き/1,500円)
【参考】エラン・ヴィタールとは――
現代哲学の巨匠のひとりアンリ・ベルグソン(仏、1859~1941)が、著作『創造的進化』の中で、より完全な生命をめざしていく根源的な躍動・跳躍する生命の力、無限の創造を促すものをエラン・ヴィタールと記し、生の哲学を推し進めた。