蛇イチゴ | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
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 蛇イチゴ(2003)

 

前回、絶賛のレビューを書いた『ゆれる』の西川美和監督、遡ること4年の2002年に制作され、2003年に公開された同監督のデビュー作です。

 

郊外の一軒家に住む、明智家。

認知症の進んでいる様子の祖父がいるが、会社員の父親、専業主婦の母親、そして小学校教諭をしている娘、倫子(つみきみほ)の4人家族は、一見どこにでもあるような幸せそうな家族であった。

 

しかし、その祖父が亡くなり、その葬式の日に、父親から勘当され、長年行方不明だった兄、周治(宮迫博之)がふらりと姿を現したことから、家族が崩壊し始める・・・・

独特な雰囲気で展開するブラックコメディーです。

 

普通に暮らしていることを演じている家族の本音を、一枚一枚剝がしていくような西川監督の演出はとても意地悪である。

 

ふらりと戻ってくる兄の周治については、詳しく書きませんが、彼の存在は、まるで、パゾリーニ監督の究極の脳汁映画、『テオレマ』(1968)で、家族を崩壊させた青年の姿とダブって見えた。

 

 

『ゆれる』でも少し触れましたが、西川監督は、音の演出がとてもうまいなと感じます。

登場人物たちの心の動きを、時にセリフが聞こえないほどの雑音だったり、完全に音声をミュートにしたりして表現している。

 

クライマックスに向けての緊張感が少しダレてしまったのが残念ですが、それでもいたるところに監督のセンスが光る作品。

携帯電話料金の滞納から、家族のきずなが綻び始める導入部のサスペンスの始め方もうまい。

 

序章の場面で、小学校教諭の倫子が、生徒に対し「嘘はいけない」とやさしく諭すように説教する場面があるのですが、これが見事に作品全体を貫く家族愛への皮肉になっているところもうまいですね。

 

「蛇イチゴ」は嘘だったのか?

観客に判断をゆだねて物語は終わります。

 

 

『蛇イチゴ』(2003)

西川美和監督 108分

2003年(平成15年)9月公開