狂った果実(1981) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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 狂った果実(1981)

 

 

いたずらに性欲を煽る作品ばかりではなく、こんな傑作も埋もれているから、日活ロマンポルノは油断できない。

 

昼間はガソリンスタンドの店員、夜は新宿歌舞伎町のぼったくりピンクサロンの店員として働いている二十歳の青年、佐川哲夫。

 

そんな哲夫とふとしたきっかけで出会う、同じ二十歳ながらデザイン学校に通っている、森知加。

 

その出会いが、真面目な佐川の人生を大きく狂わせることとなる・・・

 

高校を出てすぐ就職したであろう佐川。一方の知加は、ある人物の情婦でもあり、また、ブルジョア大学生たちとも付き合っている。

 

世の中に何の疑問を持たずに生きてきた佐川は、知加との出会いで、社会的格差を実感することになる。

 

それを彼自身理解した瞬間、どうにもならない諦めとともに、若さゆえ持っている意地が嫉妬とともに歪んだ炎となり爆発する。

このシーンは、焦点の合わない佐川の表情と、それを見つめるだけの絶望した知加を見事な呼吸で切り取って素晴らしい。

 

佐川は知加に問いかけます。

「翔んでる女なの?」

知加は答えます。

「そんなかったるいものじゃないの。漂ってるの」

 

そう、この時代、

「翔んでる女」がトレンドになっていた。

でも、私の周りにはそんな人はおらず、知加のセリフのように漂っているという形容詞がぴったりの人ばかりだった。

『翔んだカップル』ってコミックや、相米信二監督の映画もあったけど、その世界より本作での漂っている青年たちのほうがはるかに時代を正直に生きていた。

 

弱いものは弱いものを頼る。

強いもの、権力があるものは、群れてさらに大きくなる。

理屈ではどうにもならないことを壊してしまうには暴力しかないと若いころは思ってしまう。

 

どうしようもないとあきらめた瞬間に、青春は終わりを告げるという残酷なテーマを本作は持っている。

 

佐川を演じる、本間優二は、このはかない陽炎のような生活を送る青年を見事に演じ切る。

クライマックスの、どこか遠くを見ながら狂気に走る場面など鳥肌が立つほどすごい。

 

知加を演じるは、蜷川有紀。

懸命に悪女になろうとするが悪女になり切れない小悪魔的な役を、こちらも見事に演じている。とても綺麗。

 

そしてもう一人。

ピンクサロンの店長役の、益富信孝もすごかった。

キックボクサー崩れのヤクザな役で、母ちゃんの永島瑛子に甘えるときはデレデレしているのに、鬼の目になったときは強烈な迫力。

飲み代の請求に行くときの態度の豹変の呼吸が素晴らしいんだ。

これは、監督の演出の上手さでもあるんですけどね。

 

薄幸の女を演じさせたら日本一の、永島瑛子さまはもう間違いないですし。

 

これは、ほんとに傑作です。

お見事です。

 

ちなみに、本作は、石原裕次郎が主演した『狂った果実(1956)』とはまるで関係なく、同名タイトルのアリスの楽曲から着想を得たものであります。

 

その曲が流れるシーンが決まってるんだなあ。

 

 

『狂った果実』(1981)

根岸吉太郎監督 81分

1981年(昭和56年)4月公開