ロバート・デ・ニーロの ブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN I・哀愁の摩天楼 | あの時の映画日記~黄昏映画館

あの時の映画日記~黄昏映画館

あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

 

 ロバート・デ・ニーロの ブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN I・哀愁の摩天楼(1970)

 

 

ブライアン・デ・パルマ監督は、『アンタッチャブル(1987)』あたりから、大作然とした作品を得意とするような風格を示すようになりましたが、私はそんな大作よりも、『ファントム・オブ・パラダイス(1974)』を代表とするアングラっぽい作風の彼が大好きでした。

 

そのデ・パルマ監督が、ロバート・デ・ニーロを主役(クレジットは2番目ですが)を迎えての日本未公開の本作。

こうした映画ファンにとっては貴重品ともいえる作品が鑑賞できるのは、ありがたいというしかなく、動画配信サービスの充実ぶりの重要さを改めて感じることになりました。

 

さて、本作。

デ・パルマ監督の特徴であり魅力である『のぞき』が物語の導入部になります。

 

『裏窓』に代表されるヒッチコック作品の『のぞき』の影響が多大と感じさせるこの導入部。

デ・ニーロ演じる主人公が、向かい側のマンションの様子を双眼鏡で覗き見ることのできる部屋を借りることから始まります。

 

彼は、その覗き行為を用いて、向かいの若い女性に近づき、彼女との痴態をフィルムに収め、ブルーフィルムの会社のプロデューサーに売り込もうとします。

 

そして物語はこのフィルムを売り込んで映画界に主人公の青年が革命でも起こすのかなと思いきや、そのエピソードはいつのまにか脇に追いやられ、黒人が当時置かれていた不遇を白人たちに思い知らせるストーリーに置き換わります。

 

この脈絡のない展開に我々観客は戸惑います。

まだ手馴れていない演出の中にシニカルな皮肉が込められているのはよくわかるのですが、このイメージの飛躍に観客はついていけない。

観客に対する挑戦なのかとも思いました。

作中で、「こんな作品はフェリーニでも描けない」というセリフがありますが、イメージの飛躍の最先端をいくフェリーニの名前を出すことに、デ・パルマ監督の映画製作への並々ならぬ意欲を感じます。

 

手持ちカメラを多用した画面で、劇中劇ともいえる「黒人になれ」という作品が進行し、警官役としてこの作品のオーディションにデ・ニーロが応募、採用されます。

 

そして、急転直下のラストシーンで、主人公はテレビカメラに向かって「ハイ、ママ!」と呼びかけます。

この時のデ・ニーロの狂気を帯びた微笑み。

後年の『タクシードライバー』のトラビスよりも強烈に感じました。

 

場面転換に、コミック調のワイプを多用したり、覗きフィルムを作品として仕立て上げるために偏執狂的に時間をリンクさせたりするあたり、デ・パルマタッチが炸裂しています。

 

とても不器用でこなれていないけれども、後に発表される、『ファントム~』や『キャリー』『殺しのドレス』『ミッドナイト・クロス』などの華麗な映像テクニックの発芽を感じることができてとても興味深かったです。

 

面白いか、面白くないか、

それは人それぞれとなるでしょうが、どちらにしてもデ・パルマ監督ファンとしてはとても興味深い作品であったと思います。

 

 

『ロバート・デ・ニーロの ブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN I・哀愁の摩天楼』Hi,Mom(1970)

ブライアン・デ・パルマ監督 88分

日本劇場未公開/UーNEXTにて配信