前回『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』をレビューしたので、
本日もP.Tアンダーソン監督作品をご紹介。
ポルノ映画界のスター・ジョン・ホームズをモデルにした主人公、
ダーク・ディグラーがその持ち前の巨根を武器に業界をのし上がっていく物語。
巨根以外に取り柄のない17歳の少年エディは、
アルバイト先のクラブでポルノ映画界の巨匠ジャックにスカウトされる。
エディは新人ながら物怖じしない演技と驚異的な精力で、
ポルノ男優・ダーク・ディグラーとして、
瞬く間にポルノ映画界のスターに上り詰める。
ポルノ映画としては異例のシリーズ物の主演を任されるなど、
名実ともに名声を手に入れたエディだったが、
次第にドラッグに溺れるようになり、
その副作用で勃起力も次第に低下していった。
エディを可愛がっていたジャックとも反目するようになり、
エディはジャックのもとを飛び出してしまう。
時代は70年代から80年代に変わる時期。
ポルノ産業も映画(フィルム)からビデオの時代へ移ろうとしていた。
ジャックが撮っていたような作家性のあるポルノは次第に受け入れられなくなり、
素人技術、素人俳優でも賄える時代に。
スポンサーが事件を起こしてしまったこともあり、
ジャックもその波に抗えなくなっていった。
一方、飛び出したエディは一文無し同然の生活となってしまい、
レコードを出して音楽業界に出ようとするもダメ。
自らの巨根を見世物にして小銭稼ぎをしようとするが、
それもダメ。
追いつめられたエディはポルノ映画時代の仲間と一緒に、
偽のドラッグを使って強盗を計画するのだが・・・
ストーリーの主軸はジャックとエディの二人に置かれていますが、
この作品の魅力は二人に関係する周りの人間にもドラマがあり、
それもしっかりと描かれているということ。
誰かのレビューで、
本作はポルノ映画版『アメリカの夜』(1973:フランソワ・トリュフォー監督作品)だと言ってましたが、
まさしく言えてますね、その通り。
この作品で描かれる人物は、
ほとんど世間からはじき出された人ばかり。
それでも夢を持って頑張っている。
ポルノ業界にいたということで、
真面目に商売を始めようとする青年に銀行が融資を下ろさなかったり、
子供の養育権を巡って裁判で争うも不利な立場に立たされたり、
学生時代の知人に人権を踏みにじられたり、
世間の風は冷たい。
ほぼ全員絶望の淵に落とされてしまうのに、
作品は希望を持ったエンディングを迎える。
この不思議な感覚はアンダーソン監督テイストですね。
70年代後半の雰囲気を醸し出すのも実にうまくて、
エディの部屋に張られているポスターがファラ・フォーセットだったり、
アル・パチーノの『セルピコ』だったり。
クラブ(ディスコ?)で踊る雰囲気も、
『サタデー・ナイト・フィーバー』を思い出す。
そしてエディはブルース・リーなんかの影響でカラテにハマっているところも、
あの頃だなあと思う。
そして音楽も。
ポルノ映画界の帝王ジャックを演じるバート・レイノルズが流石の貫禄で、
この作品に重みを持たせています。
エディのモデルとなったジョン・ホームズの実際にあったエピソードも、
いろいろとちりばめられており、
彼の伝記映画として観るのもありかもしれません。
レオナルド・ディカプリオが本作のオファーに応えられなかったのに後悔したとのエピソードもあります。
実際のジョン・ホームズがエイズで亡くなってしまったことを考えると、
なんともいえない感情になりますね。
色眼鏡で見られる世界で一生懸命に生きる人々にエールを送りながら、
ノスタルジィに浸りながら鑑賞する。
そんな“いい”作品です!
『ブギ―ナイツ』Boogie Nights(1997)
ポール・トーマス・アンダーソン監督 156分