『陸軍』
1944年(日) 木下恵介監督作品j
第2次大戦中、
日本陸軍によって戦意高揚作品として制作されたが、
皮肉にも本作は純然たる反戦映画の傑作となった。
幕末から、日清、日露戦争、
そして満州事変、上海事変に至った60年余りの時代を背景に、
ある一家の3世代にわたる姿を描く。
元軍人だった笠智衆は戦地に赴くも、
体調不良のため最前線には送られることなく、
本人はそのことが心残りであった。
田中絹代との間に二人の息子が生まれ、
笠智衆は自分の無念を晴らすことを息子に期待していた。
橋の欄干から川に飛び込むことができないことで、
友達にいじめられるくらい気の弱かった息子だったが、
成長して陸軍に入隊。
上等兵に出世して実家に戻り束の間の安らぎを得るが、
そんな日は長くは続かず・・・
冒頭にも書いた通り、
戦意高揚映画が痛烈な反戦映画になるとは何たる皮肉だろうか。
出征する息子の行進を追う母親の田中絹代。
その横移動撮影で描かれるシーンは、
うわべだけの反戦映画を軽く凌駕してしまう映画史に残る名シーン。
出征する兵士たちの笑顔の表情に一点の曇りもないのが、
痛烈なメッセージとなる。
戦争は悪だからいけないとか、
平和な世界を作ろうなどという軽いメッセージではない。
戦時の空気が化学変化を起こして作り出された奇跡なのだ。
このラストシーン。
ラストシーンだけでも観てほしい。
戦時中に作られた奇跡の傑作です。