『情婦マノン』 原題:MANON
1948年(仏) ジョルジュ・クルーゾー監督作品
『悪魔のような女』を観てもわかるように、
クルーゾー監督は悪女を撮らせたらめちゃくちゃうまい。
この作品の主人公マノンの悪女ぶりは、
背筋が寒くなるほど。
しかし男はこんな女性に弱いのです。
イスラエルに向かう船に一組の密航者が見つかる。
ロベールとマノンのカップルである。
二人はなぜ密航しなければならなくなったのかを、
船長に話し始める・・・というのがプロローグ。
第二次大戦末期。
ナチス相手に商売をしたということで、
娼婦マノンが街人からリンチを受けそうになっているところを助けたのがロベール。
二人はあっという間に恋に落ちるが、
マノンは金持ちの生活に憧れ、
ロベールと婚約しながらも、
米国人の金満紳士と結婚しようとする。
また、
ロベールの稼ぎが悪いと思うと、
すぐに娼婦の世界に身を落とすこともいとわない。
そんな自由奔放ともいえるマノンと、
ロベールは別れることができない。
二人はユダヤ難民たちと一緒に、
パレスチナの海岸に流れ着くが、
そこからが死の行軍だった・・・
現在の場面と過去の場面が、
映画文法にのっとり複雑ながらも映画としてわかりやすく、
クルーゾー監督ならではの強烈なショットも挟まれており、
息もつかせない。
船をおりてから、
砂漠でマノンはアラビア人の蛮族に撃たれてしまうのですが、
撃たれたマノンを砂漠で引きずって歩くロベールの姿が悲壮。
遂には引きずったマノンを逆さに担ぎ上げよろめきながらも、
泉のある場所に向かう。
劇中、
決して美人とは言えなかったマノンが、
顔だけ残して砂漠に埋められるときの表情が、
奇跡的なほどに美しく見える。
とてもとても、綺麗。
奔放な女性に振り回される純朴な男の悲劇なのですが、
これほどの厳しさでこのテーマを切り取った作品はそうないでしょう。
間違いなく傑作です。
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