竜二 | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます




竜二
1983年度(日) 川島透監督作品

ヤクザ映画はこの作品から大きく変わった。
殴り込みも銃の乱射もない。
ヤクザという職業の一人の男の物語。

周知の事実ですが、
この作品、「主演」「脚本」(鈴木明男名義)金子正次のワンマン映画。
執念の遺作です。

ヤクザ稼業が嫌になり、
フッと足を洗って堅気の世界に入ってくるが、
やっぱ違うんだよなと、
妻と娘を捨ててヤクザの世界に戻っていく竜二。

この作品、脚本を何十回も読みました。
本作でも竜二の心情が丹念に描かれているのに感心しますが、
脚本段階ではあったのに、
本編で削られている部分が多いのに驚きました。
でも、あのまま編集もせずに完成させてたら、
少しリズムが悪くなったかもしれない。

竜二の生活をスケッチ風に積み重ねていって、
次第になんともいえない焦燥感に駆られていく心理描写が見事。

竜二の店(違法カジノ)に来る竜二の情婦。
羨望の目を向ける男たちに対して、
「あの女はダメだよ、腰ばっかり振ったって、
飯が炊けなきゃ女じゃねえよ」
烈火のごとく怒る淑女の皆様もおられるでしょう。
そんなセリフが続々。

でも妻の永島暎子は、いつもニッコリ許してしまう。
竜二のそれはプライドであってわがままではないのだ。

はじめて酒屋勤めをして家に借り、冷えたビールを飲む。
「プハーっ、これだな」
映画史上、一番美味しそうにビールを飲むシーンです。

初月給。
ヤクザのころから比べると、十分の一程度だろう。
「そんな金でよくやっていけるな」
竜児は言う。
「これでも模の娘よ」
妻は答える。

かつての弟分、
桜金造は麻薬に溺れていき、
北公治はのし上がる。

堅気に戻った竜二のアパートに、
北公治がやって来る。
すき焼きを囲む竜二たち、
ぶつかり合う鋭い眼光。

家計簿をつける妻。
「最近、」野菜が高いわね」
「うるせぇんだよこの野郎!」
だんだんいらいらが募っていく。

チンピラ上がりを自慢する酒屋の同僚に、
「それがどうしたって言うんだよ」と、
タバコの火を押し付ける。
このシーンで竜二の感情は沸点に達する。

スーパーの特売に並んでいる妻。
遠くで見ている竜二。
寂しそうな、悲しそうな妻の表情。
娘に、
「また、宮崎のおじいちゃんのところに戻ろうか」
娘、
「また全日空に乗れるの・・・」

雑踏の中に消えていく竜二。

これだけの文章ではけいようできないほど、
この作品は主人公に魂が入っています。

この作品がデビュー作にして遺作だとは本当に残念です。
生前に残してあった脚本「チンピラ」や「ちょうちん」、
「獅子王たちの夏」など、金子の死後続々と映画化されましたが、
一作としてこの作品を超えるものは現れませんでした。

また、金子演じる竜二のヤクザスタイル、
長渕某というタレントが影響を受けてドラマや映画で真似をしていますが、
ほんとやめてくれ!痛いよ、イタすぎる。

萩原健一が唄う主題歌「ララバイ」もいい。
ちなみに、竜二の娘役は、実の娘です。

33歳、あまりにも若すぎる死でした。
活劇を期待すると当てが外れますが、
誰もが持っているであろうプライドを捨てる人間の物語として観れば、
大変優れた映画だとわかると思います。

オススメです。

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