【デイリー新潮】【宝塚歌劇団】新興宗教、イジメ裁判、ヤクザと美人局…「美しくも清くなかった」黒歴史を元週刊誌記者が証言

 

「予科事(よかごと)」とは何か? 

 創立110年、「清く正しく美しく」の宝塚歌劇団が揺れている。宙組の娘役、有愛きい(25)が、9月30日に自宅マンションの最上階から投身自殺を遂げたことが報じられたのだ。しかもその理由が、歌劇団内における執拗なまでの“いじめ”にあったという。深夜におよぶ上級生からの罵声や説教は序の口で、先輩からヘアアイロンを額に押し付けられるなど、“集団リンチ”と見紛う状態が日常茶飯事だったようなのだ。

「まだこんなことが平然とおこなわれていたのかと、暗澹たる気分になりました」

 と呆れるのは、長年、宝塚歌劇を観てきた元演劇記者である。

「実は、つい3年前に朝日新聞が《宝塚、「伝統」の一対一指導廃止》と題する1面スクープを掲載したことがありました(2020年9月12日付)。長年続いてきた、宝塚音楽学校内における“慣習”の廃止を決定したとの記事でした。このとき話題になったのが、“阪急電車へのあいさつ”なる、驚くべき慣習です」

 それは、予科生(1年生)は、阪急電車から降りた際、ホームに立って電車に対してお辞儀をするというもので、

通称“予科事”〔よかごと〕などと呼ばれていた。

ファンや阪急沿線の住民にとっては周知の光景だったが、一般にはあまり知られていなかった。

「私も、阪急電鉄の駅でお辞儀している女の子を何度か見ました。ただしそのときは、正直、とても美しい習慣だと思っていました。というのも、宝塚歌劇団は阪急グループ(現「阪神阪急グループ」)ですから、いってみれば音校生は、“阪急の準社員”的な立場でもあるわけです。ですから乗客に向かって『阪急電鉄をご利用いただき、ありがとうございます』との意味で頭を下げているのだとばかり思っていました」

 たしかにその意味もあったが、実は、それだけではなかったのだ。

「あとになって知ったのですが、なんと電車のなかに本科生(2年生)が乗っているかもしれない、そんないるかいないかわからない先輩に向かって頭を下げていたのです。これを知って以降、頭を下げている子を見るたびに、なんとも複雑な思いを抱いたものです」

 ほかにも、予科生は本科生の前では、眉間にシワを寄せる“予科顔”〔よかがお〕をせよ、校内清掃の場所と方法は本科生から一対一で指導を受けるなど、とにかく予科生は徹底的に“しごかれる”システムになっていたのだ。

「実は、これらの習慣が廃止になるきっかけは、予科生に体調不良を訴える子がつづいたことでした。学校側が重い腰をあげて調査したところ、予科生は、本科生の指示で、毎晩、レポートや反省文を書かされていたのです。しかも、その量が多ければ多いほど認めてもらえるとあって、なかには徹夜状態で取り組んでいる子もいた。自分のダメぶりを徹底的に表にさらすことで、上部に従順になる……これはむかしの連合赤軍が用いた“自己批判”手法そのものです。このときは、宝塚に対して不気味な印象すら覚えました」

 かくして、こういった時代錯誤のような習慣は廃止になったはず……だったのだが、実際は、そうではなかったのだ。

 

“あの宗教“に入信しないと役がもらえない
「結局、なにも変わっていませんでした。そもそも、こういった過度な習慣こそが、宝塚の“伝統”でもあったのです」

 と語るのは、週刊新潮のOB記者である。実は、それら“伝統”は、週刊新潮誌上で何度となく報じられていた。

「1986年のことです。宝塚歌劇団内部で、何やら新興宗教が流行していて、それに入らないと役がもらえないとの噂が伝わってきたことがありました」(OB記者)

 それが《宝塚歌劇を操る「新興宗教」》という同誌のスクープ記事だった(1986年10月16日号)。

「この情報は同時に複数のルートから入ってきました。いまだからいえますが、そのひとつが、作家の故・野坂昭如さんでした」

『火垂るの墓』などで知られた作家・野坂昭如氏の2人の娘さんは、ともに宝塚歌劇団に在籍していた。ちなみに夫人も元タカラジェンヌである。そのせいか野坂氏は、意外と宝塚の内部情報に詳しかった。記事中でこんなコメントを寄せている。

《「二年ぐらい前ですか、娘から“お父さん、A(記事では実名)って何なの”と聞かれましてね。

最近、宝塚で、よく耳にするというんです。僕は全然知らなかったから、“決して入っちゃいけないよ”と諭しましたが」》

「野坂さんは、もう少し詳しくご存じでした。当時、雪組のトップだった平みちがAなる宗教に凝っていて、後輩たちに入信を勧めるので、みんな困惑している。従わないといい役につけないので、雪組は続々とAに入信しており……というような噂でした」(OB記者)

 華やかな乙女たちを虜にする宗教とは、どんなものなのか。この記者氏は、さっそく関東近県にあるA本部へ行ってみたという。

「そうしたところ、あまりに小さくて地味な宗教なので、拍子抜けしてしまいました。

本部といってもふつうの家で、昭和28年設立。法華経を唱える先祖供養の団体でした。

会費も月50円(現在は100円)で、寄付も賽銭もお断り。

なぜこのような新興宗教にタカラジェンヌがご執心なのか、最初は理解に苦しみました」

 その理由は、取材を進めると判明した。

「平みちは歌劇団のダンス教師に勧められて入信していたんです。いわば彼女も犠牲者でした。

結局、何でもかんでも先輩格に従うという音校生時代に染み付いた体質は、歌劇団員になっても変わることはないんです」

 

OGが蜷川演出に耐えられた理由
 平みちは、もともと花組で、雪組に異動になったのが1983年。

このとき、彼女と入れ替わりで雪組→花組へ異動になったのが、1期上の先輩、高汐巴である。

「その高汐は、花組でトップをつとめ、1987年に退団します。2年後、彼女は一種の“暴露本”とも思える書籍を出版するんです」

 それが、『清く正しく美しく』(日之出出版)なる回想記だった。もっともご本人は“暴露”などしたつもりはなく、あくまで現役時代の思い出を普通に綴ったつもりだったのだが、一般人には驚きの内容だった。

「音校時代の異様な習慣が赤裸々に描かれていました。《阪急電車に乗る際は最後尾の車両》《ハンドバッグは禁止。阪急デパートの紙袋しか持ってはいけない》、守らないと《本科生の円陣の真ん中に中腰で座らされ》て罵声を浴びる。歌劇団員になっても先輩の世話で疲れ果て、舞台本番でようやくホッとして居眠りをする……」

 そんな宝塚の空気の重さを、逆の形で証明した新劇があった。先の演劇記者が回想する。

「それは、1982年に日生劇場で初演された、清水邦夫作の『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』です。

これは、戦前のたった5年間、福井のだるま屋百貨店(現・西武福井店)に存在した《だるま屋少女歌劇部》がモデルの芝居です。この演出が蜷川幸雄だったのですが、なんと、少女歌劇OG役30名全員に、本物のヅカOGを起用したのです。

主演級だけは、淡島千景、久慈あさみ、甲にしき、汀夏子といった現役女優でしたが、

ほかはすべて、いまでは芸能界とは縁のない一般OGが招集されたので話題となりました」

 問題は、のちに「靴や灰皿を投げつける」「聞くに堪えない言葉で怒鳴る」との伝説までが生まれる、蜷川幸雄の過酷な稽古だった。いくら元ヅカガールとはいえ、すでに現役を離れてかなりたつ“オバサマ”たちが、蜷川スパルタ演出に耐えられるのか? 初演前に崩壊するのではないかとさえ噂された。

「ところがヅカOGたちにとって、“灰皿が飛んでくる”蜷川演出など、屁でもなかったのです。たしかにスパルタ稽古でした。『もっと泣け!』『バカ!』『ブス!』の連続です。しかし彼女たちは嬉々として怒鳴られていました。

いくら罵られてもいっこうにめげない。宝塚時代のイジメに比べたら、蜷川演出など、どうってことなかったのでしょう」

 さて、宗教に凝ったり、先輩のお小言やイジメだったら、まだ思い出話ですむ部分もある。

だがこれが、裁判沙汰や犯罪にまで発展するとなると、話は穏やかではない。

 

刑事でも民事でも
「2009年に、通称“宝塚音楽学校イジメ裁判”がありました。

前年に入校したある生徒が些細なことを理由にさんざんイジメられた挙句、万引き犯に擬せられ退学処分を喰らったんです。

生徒は、地位保全を求めて、足かけ3年にわたって学校側と裁判で争いました」(OB記者)

 この一連の裁判は、神戸地裁から大阪高裁までつづいた。

だが最終判決の直前、不利を悟ったのか、突然、学校側が和解調停に応じ、退学処分は取り消されることになった。

「さすがに生徒は、もう歌劇団にまでは進みませんでした。たしかに本人にも落ち度はあったんです。

それにしても、ここまで不祥事をなかったことにしようとする音楽学校や歌劇団側の体質には、ちょっと驚きましたね」

 さらにこのOB記者氏は、長年の宝塚関係の取材で、どうしてもあるキーワードが頭から離れないという。

「それは美人局〔つつもたせ〕です。1972年に発覚した、“宝塚始まって以来の不祥事”と呼ばれた事件がそれでした」

 当時の週刊新潮が《執行猶予になった圓千春のツツモタセ人生》(1972年5月6日号)で詳しく報じている。このとき世間が驚いたのは、事件の主役が現役のヅカガールだったことだ。

「一人の男性が、あるところで知り合った星組現役の圓千春〔まどか・ちはる〕と一夜をともにした。

すると、別の男があらわれて『おれの婚約者を強姦してキズモノにしてくれたな。どうしてくれる』と金銭を要求。

ほかの暴力団員もからんできて、最終的に男性は総額800万円を取られてしまう。

後年、別件で男たちが逮捕され、すでに退団していた圓千春も芋づる式に逮捕されて事件が明らかになったのです」

 ただし彼女には同情の声も多かった。

「というのも、彼女はたまたま知り合った暴力団員に騙され、強制的に美人局をやらされていたのです。

しかしそもそも、暴力団員と知り合うような生活をしていた時点で、本来のヅカガールとは思えない生き方をしていたわけです。このときも歌劇団内でイジメられ、そのウップンはらしだったのではとの噂がありました」

 ヅカOGの美人局事件は、2012年にも発生している。天海祐希の同期生でかつて雪組娘役だった浜風愛が、暴力団員の男と組んで、出会い系サイトで知り合った男を誘い出して「妊娠させたな」とのウソで恐喝していたのだ。

「そのほか、1988年には、“ヅカOG同性愛心中未遂事件”もありました。元男役のヅカOGが、退団後に経営していたダンス教室がうまくいかず、現役時代に親しかった元娘役と無理心中しようとして刃傷沙汰に至った事件でした。実はこの2人は、音校から歌劇団に入団はしたものの、なぜかすぐにやめているんです。もちろん才能の限界もあったでしょうが、歌劇団内の陰湿な雰囲気を嫌ったからだともいわれていました」

 かように退団後のOGが起こした事件でさえ、常に現役時代のイジメにまつわる噂がつきまとうのだ。

 

歪んだ伝統
 冒頭で紹介した朝日新聞記事で、2人のヅカOGが顔写真付きで登場し、こう“証言”している。

《「もう二度と戻りたくありませんね」「本科生に目を付けられないよう、ビクビクおびえる日々だった」「あれはハラスメントだった」》

 予科から本科へあがると《「被害者が今度は加害者になるという『負の連鎖』に、すぐに取り込まれてしまいました」》。

 そんな音校時代の「負の連鎖」は、歌劇団員となってもなくならない。記事中、あるOGは《「宝塚の伝統」「先輩も通った道」と自らに言い聞かせ、やられたことを繰り返してしまったことを、いまは悔やむ》と述懐している。

 しかし、自らの生命を絶たせるような「伝統」など、あるのだろうか。

ジャニー喜多川の性加害といい、市川猿之助のパワハラ騒動といい、日本の芸能界における、あまりに歪んだ「伝統」は、もういくらなんでも見直されるべきではないのか。

デイリー新潮編集部

◆ヴェルサイユ宮殿「火星のサロン」

 

◆おまけ

 

ありがとうと君に言われると なんだかせつない
さようならの後も解けぬ魔法 淡くほろ苦い
The flavor of life
The flavor of life


友達でも恋人でもない中間地点で収穫の日を夢見てる 青いフルーツ
あと一歩が踏み出せないせいで
じれったいのなんのって baby

ありがとう と君に言われると なんだかせつない
さようならの後も解けぬ魔法 淡くほろ苦い
The flavor of life
The flavor of life

甘いだけの誘い文句 味っけの無いトーク
そんなものには興味をそそられない
思い通りにいかない時だって
人生捨てたもんじゃないって
どうしたの?と急に聞かれるとううん なんでもない
さようならの後に消える笑顔 私らしくない

信じたいと願えば願うほど なんだかせつない
「愛してるよ」よりも「大好き」の方が
君らしいんじゃない?
The flavor of life

忘れかけていた人の香りを突然思い出す頃
降りつもる雪の白さをもっと素直に喜びたいよ

ダイアモンドよりもやわらかくて あたたかな未来
手にしたいよ 限りある時間を君と過ごしたい
ありがとう、と君に言われると なんだかせつない
さようならの後も解けぬ魔法 淡くほろ苦い
The flavor of life