●思う存分、夢を語ってみよう | 札幌の出版社 柏艪舎(はくろしゃ)

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●思う存分、夢を語ってみよう

 

柏艪舎は一地方出版社である。吹けば飛ぶよな、というのはまさに弊社のためにあるような形容だ。創立後17年、未だに潰れないのが不思議だとよく言われている。しかも借金をきちんと返済できないでいるから、評判もよろしくない。月末になると、経営者(僕のことだ!)が妙におどおどし始める。

 

とまあ、それが実情で、皆のお情けに縋って生きていることは間違いない。何とかしなければ、とはいつも思うものの、空手形ばかりでますます信用がなくなっている。こう書いていると、何だか人事のように聞こえるかもしれないが、本当に辛い。辛くても辛い素振りが許されないから余計に辛いのだ。

 

自分でもつくづく能天気だなと思うのだが、それでも僕は希望を失わない。夢を語る前に金を返せという人もいるかもしれない。しかし僕は、希望や夢を語らないかぎり生きてゆけないのだ。敢えて言えば、徳川家康に敗れ、唐丸籠で処刑場に引き立てられるときの石田三成の心境なのである。

 

刑場への道すがら、三成に同情した老婆が籠越しに柿を一個差し出した。すると三成は丁寧に礼を言って、有り難いが、自分は生来腹が弱いのでと断ったというエピソードだ。引かれ者の小唄、と言ってしまえばそれまで。しかし僕は夢想する。いよっ、石田三成は男でござる、と呟いた人がいた事を。

 

さあ、こうなったら思う存分、夢を語ってみよう。地方出版社が全国で何社あるのかわからないが、おそらく三千社ぐらいだろうか。札幌だけでも十三社ある。出版界に関していえば、大手出版社はことごとく東京圏にある。いわゆる一極集中だ。東京に在らざれば出版社でなし、という雰囲気がある。

 

問題なのは、それが出版関係者の思っていることと同時に、一般の読者までそう思っていることだ。同じ金を出すなら、大手出版社の本のほうが安心だ、ということなのだろう。ミシュランの星数を気にするのと同じ精神構造である。そんななかで、地方出版社はどのようにして生き抜いていったらいいか。

 

各社がいい本を出版する。それはもちろんそうだろう。売れる本よりも、まずは上質の本を出す。本屋大賞みたいなものに尻尾を振っていては、おそらく、碌な本は刊行できないだろう。その点は各地方出版の裁量に任せるしかないが、僕が言いたいのは、全国の地方出版社を繋ぐネットワークの構築である。

 

例えば、大手の全国紙に一面広告を打つとすると、一千万はかかるだろう。地方出版社にはとても手が出るものではない。しかしもし五十社が集まったとすると、名刺二枚ほどのスペースで、一社につき20万円で全国紙の一面広告が打てる。年に二回打っても40万だ。こういうネットワークのことである。

 

さらに、弊社の北海道での返本率は20%ほどである。一方、知名度のない都市からの返本率は90%を超えることがある。要するに、地方出版社にとって致命的なのは知名度の低さであり、営業力の弱さである。では、例えば福岡の出版社が出した本を、ウチが北海道で営業してあげるというのはどうか。

 

その逆もあるわけで、そのネットワークがきちんとできればお互いがもっと潤うのではないか。現時点では夢物語であることはわかっている。しかし向かうべき方向性は間違っていないように思う。各地方出版社がお山の大将であることを止めないかぎり、一極集中の壁など破れるわけがないのだ。

 

さらに、僕は柏艪舎発足当時から、柏艪舎文庫設立の夢を持っている。すでにプロジェクトチームも動き出しているが、何しろ大掛かりなことなので何時スタートできるかはまだ不明だ。それでも、何をするかというコンセプトだけははっきりしている。初めは、毎月五作品、年間計60作を発刊する。

 

日本文学の新人の作品。② 翻訳作品。③ 北海道に纏わる作品。④ 弊社の300冊以上の単行本の文庫化。⑤ この5番目が最大の眼目なのだが、道内の他社が出版した作品の文庫化である。そうすることにより、最初の出版元も、著者も、そして弊社も、それぞれに利益を得ることができるのだ。

 

こういうことを真面目に考えなければ、地方の出版文化は維持できない。旧態然とした運営をつづけた挙句に、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに、伊藤整文学賞を惜しげもなく切り捨てたのがいい例ではないか。彼らには、文化を語る資格などこれっぽっちもないことを肝に銘じるべきなのだ。

 

青臭い夢物語だ。偉そうなことを言うなら、人に迷惑をかけずにやれ。断言するが、こういうことをしれっと口にする人間こそ、文化をダメにする連中なのだ。彼らには夢の大切さが理解できない。夢とは実現されてナンボだと思い込んでいる。冗談ではない。夢とは、結果ではなく、プロセスなのである。

 

201812141516日 ツイッター投稿

 

山本光伸ツイッター @yamamoto_mitsu
https://twitter.com/yamamoto_mitsu
 
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