俺もほどほどで帰るかな…と思いながら部屋のドアを開けると

「そんなの関係ないねっ!!!」

知念が強い口調で叫んだ後 勢いよくグラスを空ける。

ん?今度はケンカか?

なになに?って席に座りながら隣の伊野尾を見る。

「それが…知念がもし大野君と付き合えたら…みたいな事言ったら、
男同志じゃ~ん…みたいな話しになって。みんなが笑って……
知念、昔から大野君に憧れてるから…」

突然 サトシくんの名前が出てドキッとする。

「本当に好きなら 地位とか、性別とか、歳とか…そんなの関係ないって…」

楽しく賑やかだった場の雰囲気が一気にピリピリした空気になって
戸惑った様に伊野尾がボソボソ説明する。


少し遅れてやって来た知念は、遅れを取り戻す様なハイピッチで
グラスを空けていた。

それにしても……酒を飲む姿がサマにならねーな(笑)
まだそんなに飲める訳でもないのに大丈夫か?
と思っていたら案の定すっかり目がすわってる。

そろそろ帰るつもりだったけど サトシくんの名前が出たからには
はいサヨウナラとは…言えない。
とりあえず事の成り行きを見守る事にした。

「別にさ、付き合わなくてもいくね?先輩、後輩で仲良くして貰ってんだし…」

年長の藪がとりなし顏で言う。

そんな藪の気遣いに気付く余裕もなく すっかり興奮した知念が

「俺はさ、一番になりたいんだよ!大野君の一番に。
可愛い後輩じゃ一番じゃねーじゃん!」

隣の伊野尾が俺に気を使って

「でもさ、やっぱり大野君の一番は櫻井君じゃないの?
いつも一番信頼してるって言ってるし」

ね?って顔して俺を見る。

まぁそうだよ。
サトシくんは 俺の事を認めてくれてて…そりゃ他のメンバーの事も
認めているけど、なんて言うかな…自他共にお互い一番信頼しあってるって
思ってる…と思う。

「そうかもしれないけど……」

伊野尾に言われて 少し沈んだ声で俯いた…

でも!とキッと顔を上げて俺を見る。

「でも恋人じゃないんですよね⁈」

え?

「仕事でいくら信頼しあってても、やっぱり人生の大切な決断を相談するのは
恋人とか奥さんとかじゃないですか!
友達や仲間はいいとこどりみたいなトコがあるけど、恋人や奥さんは
お互いの人生まるまる背負うって言うか…運命共同体って言うか…
全部含めての一番なんですよ。
櫻井君はメンバーとして一番かもしれないけど、きっと大野君の恋人は
櫻井君の知らない大野君を知ってると思うんですよね。」


えっ…?

俺の知らないサトシくん?

俺の知らない……

俺じゃない一番……?

俺の知らないサトシくんを知ってる人が居るなんて
考えた事もなかった。

サトシくんにとって一番大事な人…


頭をガンっと殴られた様な気がした。


なんで今まで考えた事が無かったんだろう…

そうだよ…
恋人が居たって全然不思議じゃない…


そっから先は 水の中にいる様に 周りの声がモヤモヤ聞こえて……
何も耳に入ってこない。

サトシくんの一番……

いつかは俺のそばから離れていく……?



「大野君の一番になりたいんだっ!」

突然蘇る…

遠い昔…

14歳の俺が叫んでいた。