今日から暑さが本格化する8月です。暑さに抗ってブログを書くことにします。
気候変動、地球温暖化、観測史上最高の気温等々、猛暑に関わるニュースには事欠かない昨今ですが、朝日新聞デジタル版(2024/7/26)から、こんなタイトルの記事が配信されてきました。
多分、誰かが言ったエアコンの設定温度を28℃にということかと思ったら、そうでした。小池百合子さんが環境大臣だった時、彼女がクールビズと言い出し、環境副大臣の盛山さん(現文部大臣)がエアコンの設定は28℃を推奨すると宣言、2005年のことでした。
私は、OSの設計に回る前、冷凍空調機の製造事業所で空調負荷計算をやっていたことがあります。
多少はこの方面の知識を持っています。今日は、霞が関官僚の悲鳴をを取り上げます。気象庁ホームページにある気温データを見ると、1901年からの123年間で格段に暑くなっていることが分かります。
気象庁のデータによると、環境省が28℃推奨を発表した2005年の一年前、2004年の夏(6~8月)の最高気温の平均は30.5℃、最高気温は39.5℃でした。一日の平均気温は約26.5°Cですが、これは温度の下がる深夜から早朝のデータも参入した平均なので低いのは当然、エアコンの設定温度28℃の妥当性説明にはなりません。そもそも、28℃では気温よりも高くなってしまいます。
夏でも冬でも、1日のなかで最も気温が高いのは一般的に午後2~3時ごろと言われています。太陽が最も高い位置に来る正午頃から地面に直接熱を与えるため最も暖まりますが、空気が暖まるまでに時間がかかるため、最高気温が出るまでにタイムラグが生じるのと、午後になると熱を受けて温まった地表から上空に向かって熱を逃がす放射のほうが大きくなりはじめ、その頃(午後2~3時)に気温がピークに達し、この時間帯に最高気温が記録されるようです。
室内の温度の目安は外気温との差が5~6℃だそうですが、体への負担が少ない室内外の気温差は7~10℃程度とされており、屋外が35度ならば室内は25~28度ほどになります。データ的には28℃は理に適っていますが、上掲の朝日新聞デジタルの記事には、霞が関の官僚たちは『暑くて仕事にならない』と悲鳴が上げているとのこと。扇風機を併用して暑さをしのいでいるという状況下では、良い施策が生まれないかもしれません。
28℃を推奨した空調の効いた涼しい部屋で仕事をしている現場感覚の薄い有識者と称する皆さんは、1972年に当時の労働省から発表されたこの条文を見たことがあるのでしょうか?17℃~28℃以下となっているほか、湿度についても規定しています。
1972年から28℃を推奨した2005年まで、32年間の気温の上昇は顕著なことを考慮すると、最高の28℃の設定でも不十分です。クールビズが推奨され、ノーネクタイはもちろん、軽装でも勤務できるようにして体感温度を下げる対策が採られていますが、勤務する官僚たちの感想は上述のとおりです。そもそも、2005年の28℃を発表した環境副大臣が、こんなことを言うようでは話しになりません。
ところで、この28℃は作業環境として適切でしょうか。年齢層別に快適と感じる室温は違うようですが、ダイキンがホームページで公開しているデータがあったので、これを使って年代別に快適と感じる室温をグラフ化したのが下図です。
オフィスで働くビジネスマン達が感じる快適温度は年齢層で多少の差はあるものの、28℃ということはなく、平均が25.1℃となっていることが分かります。政府の推奨する28℃がどの様な検討経過をたどって決まったのか分かりませんが、3℃も開きがあることが分かります。『ネクタイを外し、スーツを着ないでできるだけ涼しくして、28℃で我慢しよう!』ということかも知れません。しかし、快適と感じる室温との差が約3℃もあると作業効率に影響はないのでしょうか?
早大田邊教授の研究ではコールセンタでの電話対応効率と室温との相関を調べたところ、室温が1℃上がると効率は2%下がるという報告があります。コールセンタでの調査が一般オフィスの業務でも当てはまるかは分かりませんが、目安にはなります。
また、『環境温度の違いが作業パフォーマンスに及ぼす影響 (建設労働災害の発生原因としてのヒューマンエラー防止に関する研究』によれば、室温の変化と聞き逃しによるミスとの関係を調べた報告でも、室温が低い方がミスの発生率が低くなっていることが報告されています。
レポートで報告されている室温が1℃上がると効率は2%下がるという目安を考慮すると、既述のように平均的なビジネスマンが快適と感じる室温が約25℃なので、3℃高い28℃では6%の生産性低下となり、無視できなくなります。電気代の節約を上回るオフィスの生産性低下で損失がでてしまう本末転倒な状態を招く懸念があります。
経営者は、政府推奨の28℃にするのか実態を調べた25℃にするを判断しなければなりませんが、従業員満足度向上と同時に生産性を維持するためにも室温に注意を払い、25℃が心地よいと感じるというダイキンの調査結果と早大の調査を踏まえた室温設定をすべきではないかと思います。
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