前回、CT検査の被ばく線量と検査のメリットデメリットについてのブログでした。今日もその続きです。コロナウイルスに感染すると肺に影響があり、CT検査を行うとその状態が視覚的に分かります。

症状の進行状況を正確に把握することができ、効果的な治療につなげることが可能になります。一方、CT検査により被ばくを気にする方もいます。CT検査は急激な進歩をしてきましたが、現在のCT検査装置は、撮影時間が短くなり、より高精細な画像が得られるようになっています。特に造影剤を使った血管と臓器の描出や血流の評価に有効な三次元画像の作成が可能になり病気の診断をより確かなものにしています。一方、複数回の撮影を行うことから被ばく線量は増加します。しかし、被ばく量低減のための技術開発が進んでおり、できるだけ少ない線量(被ばく量)で細部まで見られる鮮明な画像、立体的な画像などが得られるようになってきています。これにより、EBMポリシに沿った的確な治療を行うことができます。CT検査で被ばくする線量についての考察は、前回のブログをご覧ください(クリック)。


今日のブログは、CT検査そのものではなく、検査をする前に行う造影剤注入時の起きた事故の話です。少し古い情報ですが、2014年4月に国際医療センタで起きたレジデント(インターン修了後、臨床訓練中の医師)が、脊髄造影検査には使ってはいけない(禁忌)となっているとは知らずに、造影剤(ウログラフイン60%注射液)使ってしまい、患者が死亡した事件がありました。なお、同薬の添付文書には禁忌として脊髄造影に使わないことと明記されています。

《経緯》
・指導医は造影剤としてイソビスト注240を使用する旨、指示
 (脊柱管狭窄症のX線検査のクリニカルパスで造影剤がイソビストになっていたかは不明)
・当該レジデントの造影検査経験は、他の病院で約10例程度の経験あり

主治医は外来診療が終わっていなかったので、レジデントとはいえ知識経験があるので任せた

レジデントが術者となった
介助医師は研修医

・X線透視室の隣にある操作室の棚には造影剤イソビスト(主治医指示薬)とウログラインがあった

・レジデントは脊髄造影では禁忌なっているウログラインを取り出した

・研修医が同薬のアンプルカットをした(術者の指示)

・レジデント(術者)は造影のため、ウログラインを注入した

・脊髄造影後、透視下撮影、CT撮影実施し、帰室

・しばらくして痛み&痙攣発症し、救命処置開始

・患者死亡

《事故原因》

・X線透視室隣の操作室の棚に常備してある2つの造影剤が前後に置かれていた

 (手前にイソビスト、後ろにウログラフイン)

・主治医の指示したイソビストではなく、ウログラインを取ってしまった

(介助の研修医が取ったのかレジデントの術者が取ったのかは不明)

・取った造影剤を主治医の指示ものであるかの確認(照合)しなかった

・術者は注入時に造影剤の確認をしなかった

・更に、この術者(レジデント)はウログラインが脊髄造影禁忌薬とは知らなかった

 

術者(レジデント)が使い方に注意が必要なハイリスクなウログラフインに関する知識を欠いていた理由として病院側が挙げていたのは、以下の3点。
・MRIが行われるようになり、脊髄造影検査を経験する機会が減った
・検査件数が少ないと、診療の現場で先輩から教えてもらう機会が少ない
・造影剤には複数種類があり、全て教えられない
これらは、ミスはやむを得なかったという病院側の主張になっている・・・と思う。

 

《再発防止策》

同センタでは以下の再発防止策を採るとしています。

①レジデントや研修医の基本的な知識や手技の確認と研修
②ハイリスク薬を使う脊髄造影検査のマニュアルの整備
③チーム医療における相互チェックの実践
④ハイアラート薬(注意すべき薬剤)の管理の徹底
⑤指差し声出し復唱ルールの再確認
⑥インシデント報告の推進
⑦医療安全パトロールの強化
⑧造影剤の配置と管理の見直し

 

“規則整備と教育の徹底、習慣の醸成”、簡単に言えばこんなことですが、~の徹底、~の実践、~の確認、~の推進、~の強化という精神論。人間の注意力に期待するのでは、時間の経過と共に緊張感が薄れ、効果も薄れることは容易に想像できます。これでは、再発必至です。③のWチェックですが、これも万全ではありません。複数人いると他人を当てにし、責任感が薄まるリンゲルマン効果が懸念されます。また、問題が起きると必ずと言っていいほどマニュアルの不備が挙げられますが、マニュアルを作って安心してはいけません。クリニカルパスを作るべきでしょう。事故が起きると異口同音にマニュアルの整備を挙げる傾向にありますが、万が一の際の言い訳にして病院の管理責任を軽減しようという程度かもしれません。朝礼の際に唱和しても、無意識に唱和しているだけで、気にかけなくなることは、本人たちが一番よく知っています。

この医療センタの具体的な効果を期待できる再発防止策は、ハイリスク薬剤を使う際にアラートが表示されるシステムです。仕掛けは簡単です。
《中身のある再発防止策》

①タブレットに検査対象患者一覧を表示

②当該患者をクリックして確定

③当該患者に指定されている薬剤を表示

④ピックアップした薬瓶のコードをタブレット内蔵のカメラで撮影

⑤この薬剤が禁忌とする対象があれば、その旨を表示しブリンクさせる

⑥指定された薬剤か否か、カルテを参照する

現場レベルで業務を理解していないベンダのSEには思いつかないことですが、現場を知っている方々は誰でも発想できる仕掛けです。

 

※質問はosugisama@gmail.comにどうぞす。

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※自分の経験のように話す方もいるようですが止めるように!モラルの問題です。