中国武漢発のコロナパンデミックは患者数が500万を超え、死者は30万を超えました。ウイルスvs人類の第三次世界大戦の様相です。素性が分からない新型ウイルスなので治療薬はなく、対処療法的にアビガンなどの既存薬が使われています。これら既存薬が対象とする病名のなかに、コロナウイルス(COVID-19)を入れるべく治験が行われています。もっと進んで、感染しない、あるいは感染しても重症化しないワクチンの開発も急がれています。石田純一、赤江珠緒が劇的に症状が回復したアビガンの添付文書を見ると、重篤な副作用や併用できない薬、服用できないケースが書かれています。

アビガンは人間に適用して効果があるのか否かの治験に先立って行われる動物実験では、胎児に奇形が生じる可能性があることが報告されているので、妊婦やこれから子供が欲しい夫婦は避けなければならないなど、医師が患者の生活、病状、既往症などを勘案して適用しても良いと判断し、患者も副作用の可能性を了解したうえで服用されます。コロナウイルス感染患者は、急変する可能性があるので重症化するよりは良いという判断もあるでしょう。しかし、アビガンの適用病名にはコロナウイルス(COVID-19)はありません。あくまでも対処療法で医師の判断で臨時に使っているだけです。アビガンをコロナウイルス(COVID-19)適用薬として承認するには新たな治験が必要になりますが、緊急事態だから手続きを簡素化しようという動きがあります。しかし、既存薬といえども、薬として認可された範囲を超えて適用外の病気であるコロナウイルス(COVID-19)に適用するにはきちんとした手続きを踏んだ追加の治験をおこわなければなりません。


治験には、①治験薬の安全性や吸収および排泄などの確認、②治験薬の用量及び用法の確認、③既存の薬やプラセボなどとの比較をするフェーズがあり、我々が取り組んだ病院統合情報システム開発の治験処理でも、仕様書にはどのフェーズかを指定できるようにしていました。

アビガンより早く米国で承認されたイベルメクチンは、アビガンが重症化を防ぐ用途に対し、重症化した患者が死に至らないための緊急避難的用途とされていて、本来は腸管糞線虫症、疥癬の治療薬とされています。

まれに重篤、または致命的な脳症が発症することがあるという副作用のきついこの薬を急いでコロナウイルス(COVID-19)治療薬にした経緯は分かりませんが、死ぬよりもマシという究極の選択かもしれません。あまり深く考えない傾向のあるトランプ大統領が強引に進め、治験のプロセスを簡素化した、拙速な承認ではなかったかと懸念されます。この辺は既に『コロナ特効薬の短期開発は是か非か?』でも触れています。

一方、薬ではなく、罹らないようにするため、あるいは罹っても軽く済むためのワクチンの開発も進んでいます。ワクチンは、毒性を弱めたり、不活性化させた病原体を体内に注射するものですが、本当に発症してしまう例もあります。そうならないよう、慎重に開発するので、相当な期間が必要とされています。候補を見つけ絞るのに数年、それを数十人に少量接種して安全性を確かめる臨床試験の第1段階に数カ月、有効性を確認するため通常量を数百人に接種する第2段階に数カ月~2年、同様に数千人に接種する第3段階に1~4年かかるとされるワクチン開発、パンデミックの今、とても間に合いません。緊急性の高かったエボラ出血熱のワクチンですら開発が加速されてから4年を要しているのが実態です。対処療法的な既存薬の拡張解釈でしのいで時間稼ぎをし、開発を待つしかありませんが、今回開発中のワクチンの多くは、ウイルスそのものやウイルスタンパク質を使う従来型ワクチン開発と異なり、ウイルスの遺伝子組み換え技術を使う新手法で、既存の遺伝子組み換え技術の成果を応用できるとのこと。その結果、数年かかっていたワクチン候補の選定までの期間を技術の成果で省くことができ、承認までの時間の大幅短縮が可能とのことです。しかし、それでも安全性を確かめる臨床試験、有効性を確認するため臨床試験などの過程を省略することはできず、結局4年かかったというエボラ出血熱ワクチンのようになる可能性があります。

 

日本医師会 COVID-19有識者会議は、新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言を発表しました。そのなかで、有事といえども科学的根拠の不十分な候補薬を、治療薬として承認すべきでないと主張しています。また、有事だからエビデンスが不十分でも良い、ということには断じてならないとも言っています。パンデミック下のランダム化比較臨床試験は省いても良いと主張する医師もいるそうですが、たまたま治験した患者に有効だったことを根拠に承認し、投与した結果、逆に作用して重症化したらどうするのか!です。死ぬよりはマシだろうという乱暴な主張だと思います。急ぐべきだとは思いますが、その結果、安全性が十分確認されずに拙速な投与で人為的な感染が拡がらないように慎重にやらなければならないと考えます。

 

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