黄色い達磨大師② | 横浜屋上日和

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ズボラ人間ですが、頑張って屋上菜園や庭の草花のこと、時々猫のことなど綴っていきたいと思います(^○^)

みなさんこんばんは、はこっぺです。
只今、大絶賛夜勤中です。


お約束の、達磨大師の話を。


Tさんの癌性疼痛は、モルヒネの効果もあって
以前よりも大分楽になってきました。
定期的な内服と、痛くなった時の頓用内服で疼痛コントロールはついてきました。



ただし、それ以外の苦痛は残ります。

腹水が溜まることによる苦しさと、波は有りますが、嘔気による食欲不振です。
モルヒネの副作用の便秘も影響しているようでした。
女性で、経産婦さんはわかると思いますが、アレのもっとパンパン状態です。




腹水に関しては、「腹腔穿刺」を行います。

文字通り、腹水の溜まっている場所に針を刺して腹水を抜くのです。先生がエコーを当て、穿刺する場所を探して針を刺します。
あとは、自然に管から流出するのを待ちます。

Tさんの場合、毎回2〜3リットルはとれました。
苦しいはずです。

抜いたあと2〜3日はいいのです。本人も楽になって穏やかです。しかし腹水はあっというまにまた貯留して、Tさんのお腹をパンパンにします。

「だったら、定期的に腹水を抜けはいいじゃない?」と思われるかもしれませんが、腹水はただの水ではなく、タンパク質たっぷりの水なのです。頻回に腹水をぬけば、Tさんの栄養状態は更に悪化し、血圧が下がったりといいことばかりではないのです。腹腔穿刺は、止むを得ない応急処置なのです。




痛みと腹水による苦痛は、何となく対処出来ていました。全ては「良くなる治療」ではなく、「対処療法」なのです。


そして最大の問題は、「食事が取れないこと」でした。Tさんは病院食には殆んど手をつけず、奥様が持ってきた果物をつまむ程度しか食べていませんでした。下手すると、ソレもあとで吐いていました。
栄養状態は悪化し、点滴に依存せざるを得ませんでした。












そんなある日、Tさんの体調が比較的良い日がありました。


とてもいい笑顔で、

「はこっぺちゃん、俺今からコーヒーを淹れてあげるよ。俺、コーヒーにはこだわりがあるんだよね。」


Tさんなりに私をおもてなし?しようとしてくださっていて、ホントに嬉しかったです。

ただし、私はそのせっかくの申し出を断らなくてはいけませんでした。

それは、「学生は、如何なる場合も患者さんとご家族から物,金品,飲食物を受け取ることは禁じられている」からです。

Tさんも、それは知っていました。何せ、初めて付く学生ではないので。


同室者の患者さん達も、その患者さんに付いている学生達も皆んな見ていたし、状況を理解していました。


「学生さん、せっかくだからいただきなよ。
この部屋、ナースステーションから一番離れてるし、この時間帯なら看護婦さんも先生も来ないでしょ?」

同期のSちゃんの担当患者さんで同室者のYさんが
言いました。みんな、Tさんの体調が良いのが嬉しそう。仲良し部屋なんです。

そーゆう訳で、6人部屋プラス学生全員が共犯?ということで、コーヒーをいただくことになりました。
でも、Tさんはご飯も水分も取れない状態。
私だけがいただくことになりました。



11月 秋の西日が差す穏やかな病室内に、コーヒーの香りが立ち込めました。


その時にいただいたコーヒーは、本当に美味しかった。そして、コーヒーを飲む私を優しい眼差しで見守るTさんの表情、慈愛に満ちていました。

あ、きっと本物の達磨大師も こんな風に慈愛に満ちた表情をしていたんだろうな、なんてぼーっと考えていました。


その時、入り口の患者さんが「あっ」と声を出しました。


部屋の入り口に、学生指導者でもある病棟の主任看護婦さんが立っていました。


私の飲んだコーヒーはまだ半分程残っており、そのままTさんのオーバーテーブルの上にありました。



主任はそのままTさんのベッドサイドまで一直線に近づいてきました。



「このコーヒー、誰の?」

主任は、Tさんを真っ直ぐ見据えて聞きました。


「俺のだよ」
Tさんも、主任を真っ直ぐ見据えて返答しました。



それは無理があるよ∑(゚Д゚)



大部屋の全員が、そう思いました。


暫く食欲不振で、飲み物も満足に取れないことは皆んなが知っていました。



「本当に?」

「本当だよ」


そのまま20〜30秒くらい、こんな感じ














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(写真はお借りしました)

いや?こんな感じ?








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(写真はお借りしました)




すごく長い時間帯にらみ合いを?してた気がしました。


主任はフッと笑い、「まぁいいわ。少しでも飲めるようになったなら。」と言って去って行きました。



主任が去っていくと、部屋全員プラス学生の緊張感が一気に溶けました。

Tさんだけが得意げに、
「ほらね、俺はにらみ合いで負けたことはないんだよ。」と笑っていました。











あとでナースステーションに戻り、主任にありのままを報告しました。怒られるのは覚悟の上で。


主任は、
「まぁ、そんなことだろうなとは思ってましたよ。今のTさんはコーヒーを欲する状態ではないしね。Tさんが勧めたんでしょ、不可抗力よ。」と失笑?していました。

私は特にお咎めもなく、解放されました。



何となく、Tさんと私,そして同室者の方達に一体感が生まれた?出来事でした。








11月が終わろうとしています。

私の実習が終わりに近づいてきました。






続く