可能性と才能を信じて育てる
十代の頃、バンドでプロになりたいと思っていて、せっせと練習やライブをこなしていました。
17歳のとき、神戸の憧れのバンドから引き抜きの話が来ました。
メンバーは全員30歳以上という、かなり年上のセミプロのバンド。
神戸の名門ライブハウス・チキンジョージでのライブ日程ももう決まっているという話までついて、メンバーにならないかとのお誘いです。
当時の私は、同じ年のメンバーとオリジナル曲を入れつつ大阪でバンド活動をしていましたが、
・友達と楽しく少しずつ成長していくか
・スタジオミュージシャン級のメンバーの中で勉強するか
究極の選択・・・と思いつつ、頭をよぎったのは私では迷惑かけるんじゃないかという不安。
でも、
ついていけるかな~ という不安より、一緒に演奏したい!っていう思いがはるかに勝っていました。
憧れの人達と演奏できるチャンスは、これを断ったらもう来ないかもしれない!
チャンスに挑戦してみたい!
そう思って、バンドを移ることを決めました。
幸い、もとのメンバー達は大らかに祝福してくれましたし、さよならライブまで企画してくれたり、その後も友人として関係は続きました。
練習はハードだったけど、メンバーのレベルについていきたくて、自宅で毎日8時間ぐらい鍵盤に向かっていました。 指先に血豆を作りました。
その甲斐あって、この時期、劇的に上達したんです。
無事にチキンのライブもこなしました。 当時のボーイフレンドが、「そんなに上手かった?!」とびっくりしたほどです。(彼もミュージシャン)
私を見込んでくれた人は、メンバーを育てるのがとても上手です。
実際に何人もの人を育てる現場を見ましたが、「なんでこの人を引き抜いたんだろう?」と思うような平凡な感じの人が、2~3ヶ月の間にみるみる演奏力を上達させ、ルックスまで垢抜けていくのです。
まさに、マジック☆
その秘訣を聞いたことがあります。
「お兄ちゃん(と呼んでいた)、なんでそんなにメンバーが上手くなっていくの?
何を基準に引き抜いてくるの?」
「うーん・・・ 俺の経験上からやけど、
リズム感については9割までは上達させられる自信があるねん。」
「天性のものじゃないの?」
「それはほんの一部だけちゃうかな。
もちろん関係はあるけど。
天性の何かによる違いがあるレベルを超えて現れるとしたら、
そこまでのポイントまではどんな人でも育てられる自信があるよ。」
「才能でを見抜いて引き抜いてきてるんじゃないの?」
「そりゃもちろん、バンドだしライブもあるし、ステージ映えしそうかチェックはする。
でも、それも、かなりのレベルまでは、なんとでもなるねん。
大事やとしたら、素直なことかなぁ。
今すぐテクニックが上手いとかより、素直な人が伸ばしやすい。
話してみて、素直そうで、なおかつ育ててみたいと思ったヤツを誘ってるねん。」
と教えてくれました。
彼は、「全ての人はかなりのレベルまで才能を伸ばすことができる」 と、相手の中に眠る才能を信じています。そして、それを育てることができるという自信も持っているのです。
彼はまた、誉める天才です。
もっと練習しよう、上達しよう、楽しもうって気持ちが自分の中からどんどん湧いてきて、自発的にみんな上手になっていく。
それで、結果的には育った人は巣立っていくのだけど、また新しい人が彼に出会って育てられていくんです。
すっかり、私もそのレールに乗せられ、思い出に残るステージを何度も一緒に経験できました。
一緒に演奏していると、どんどん楽しみながら上達してしまう。 知らなかった自分の能力に気づく。
自信が出て、ルックスまで変わっていく。
これって、すごいことじゃない?
その後も、いろいろなメンバーと演奏をしたのですが、才能を見抜くセンスや、楽しいオーラを伝播させる力、もちろん演奏力も含めて、彼を超える人にまだ会いません。
彼の力の源泉は音楽への愛にあったと思います。
あまりに溢れる楽しさ、周りを巻き込んでいってしまう。
私も、そんなふうに、
自発的に人生を楽しんで
眠っていた能力に気づき
どんどん自ら成長していってしまうような人を
世の中に増やしていく存在になりたいなぁと、思っています。