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忘れちゃうひととき

青臭い駄目人間の、イカ臭い日常を、小便臭い文章で、つらつらつらと書き綴っていく予定です。それ以上でもそれ以下でもそれだけでもありません。


昼過ぎに目が覚めた。

取り敢えず、空腹である。
生協で毎週届けられている冷凍食品をあてにして冷凍庫を覗くと、見事に何もない。
「お前に食わせるメシはねぇ! ケッケッケ!」と嘲笑された気がして、少しだけムッとした僕は、わざと音を立てて冷凍庫のドアを閉めた。

こういう時はラーメンである。
一家に一台、生活必需品、何はなくともラーメン、困った時のラーメン頼み。人類の歴史はラーメンから始まった。

出不精の僕からしたら信じられないほどの機敏さで出掛ける支度をし、自転車を飛ばしてラーメン屋へ向かった。
大盛り完食。
大変おいしゅうございました。

食後の一服をしようと、いつものスタバへ行く。
家に帰っても、特にすることなどないのだ。
「ブレンドのショートください。ホットで」と、「ホットで」の部分をやや力強く発声してオーダーすると、若干滑舌の悪い女性店員が「お待たせちまちた、こちらクリスマスブレンドになりまちつ」と言いながら紙コップに入ったコーヒーを持ってきてくれた。

『ん?』と思った。
違和感がある。
何か、満腹になって果てしなく穏やかな、太平洋のように波一つ立っていない僕の穏やかな心に波風を立てる単語を、今この女性店員は発しなかっただろうか。
『ん?』の表情のまま一礼し、やっぱり滑舌の悪い「ありがとうございまちた!」を背中に浴びながら、ふと手元の紙コップに目をやった。
おお、何たることか!
紙コップが赤いではないか!
クリスマス特別仕様ではないか!
馬鹿な!
我々の平和な日常にまで、クリスマスはかくも深く侵入し、ゆっくりと、しかし確実に我々を蝕んでいるというのか!

怒りを通り越し、深い悲しみに襲われた僕は、黙ってオープンテラス席に腰を下ろし、煙草に火をつけた。
iPodをいじる。
悲しみの底にいた僕には選曲をする気力など残されてなく、そのまま再生ボタンを押した。

「プラダの靴が欲しいの~♪」

クリスマスソングだと!?
ふざけるな!

…………。

そんなことより、オープンテラス席が寒過ぎる。
もう帰ろう。そうしよう。
このままでは死んでしまう。


♪今の気分的一曲
痛快ウキウキ通り / 小沢健二

相変わらず、今日も外に出ていなかった。
そそくさと着替えて、夕飯の支度を終えようとしていた母親の背中に「帰ったら食べるから」と告げて靴を履こうとしていると、「お好きにどうぞ」と母親の背中が応えた。

駅前のフレッシュネスバーガーまで歩いて、コーヒーだけを頼むと、席に着くなり文庫本を開いた。
時折、思い出したようにコーヒーを啜ったり、煙草を吸ったり。
優雅なのだろうか、怠惰なのだろうか。
第三者の目からすると、そんな僕の姿がどのように映っているのかなんてことは、小説の世界に没入しきっている僕のとって一ミリも興味がないことであるが、今こうして振り返ってみると、そんな自分の立ち居振る舞いや仕草がどんなものなのかを少しだけ知りたくなる。
これはきっと自意識過剰なんだろう。

一時間半ほどで小説を読み終え、いつの間にか空になった煙草や吸い殻の溜まった灰皿、申し訳ない程度にマグカップの底を焦げ茶色で覆っているコーヒーなどを順番に眺めてから、ふと店内の壁掛け時計に目をやると、20時半を回る頃だった。
忘れていた空腹感が突如全身を支配してきて、そのごく生理的な感覚は、小説の世界に片足を残したままだった僕の背中を強引に押し出したかのように、僕を一気に現実へと引き戻した。

帰り道。
途中にあるマンションの庭スペースを横切ろうとしたら、イルミネーションに彩られた木々が立ち並んでいた。
なんだか虚を突かれたような気分になって、茫然とそれを眺めていた。
「そういえばクリスマスなんだなぁ」なんてことをぼんやりと思い出すと、急に胸の内がざわざわとし始めて、パシャリと携帯電話で写真を撮って、足早にそのマンションを後にした。

夜空には灰色の雲が浮かんでいて、月に重なったり離れたりしている様子から雲がゆっくりと動いているのが分かった。

クリスマスなんて、クソヤローだ。
少しだけ欠けた月を睨みつけながら、僕は唇を尖がらせてそう思った。


♪今の気分的一曲
大好きな君に / 小田和正

TSUTAYAに返却をしにいかなければならない朝ほど、大義な朝はないのである。

面倒臭くて死にそうだ。
こういう時は、BGMの選択が死活問題となる。
爽やかぁな、ゆったりぃな、早朝に似合う音楽とともに歩みを進めなければならない。

駅に向かうサラリーマンの群れがいて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
僕は、この後ウンチして寝ます。


♪今の気分的一曲
Hello, Again ~昔からある場所~ / My Little Lover